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本論文は大阪国際がんセンター・ 七條智聖先生が『Scandinavian Journal of Gastroenterology』誌(2019年)に発表した「CNNを活用した内視鏡画像におけるヘリコバクター・ピロリ感染の評価」に関する論文です。
Application of convolutional neural networks for evaluating Helicobacter pylori infection status on the basis of endoscopic images
はじめに
2017年に発表された論文「CNNを活用した内視鏡画像上のヘリコバクター・ピロリ(以下、H.pylori)感染の診断支援システムの開発」では、H.pylori感染胃炎を内視鏡画像に基づいて診断する際の畳み込みニューラルネットワーク(以下、CNN)について報告されました。
上記の研究ではH.pylori陽性及び陰性患者のみを対象としていました。
本研究ではH.pyloriの全感染状態(陽性、陰性、除菌後)を識別する能力を評価するため、GoogLeNet注1)アーキテクチャに基づいたConvolutional Neural Network(以下、CNN)注2)を開発し、学習と検証を実行しました。なお、CNNアーキテクチャはCaffeフレームワーク 注3)で実現しました。
研究方法
教師データ5,236症例98,564枚(H.pylori陽性742例、陰性3,649例、除菌後845例)の内視鏡画像で学習したCNNを用いて、検証データ847症例23,699枚(H.pylori陽性70例、陰性493例、除菌後284例)のH.pylori感染状態の識別能力を評価しました。
結果
● CNNは画像毎にH.pylori感染状況を示す確率スコアを出力した(範囲:0~1)。最も確率の高い (最大の数値)状態を「CNN診断」として定義した。
- 〇 CNNは23,699枚中418枚をH.pylori陽性、23,034枚をH.pylori陰性、247枚を除菌後と診断した。
- 〇 H.pylori陰性の所見が多かったため、H.pylori陰性の確率を人為的にPn 0.9と再定義したところ、80%(465/582)がH.pylori陰性と正確に診断され、他84%(147/174)がH.pylori除菌後、48%(44/91)がH.pylori陽性と診断された。
● CNNによる23,699枚の画像の診断時間は261秒だった。
結語
CNNを用いることで、内視鏡画像におけるH. pylori感染状態を非常に迅速に診断することができました。
注1)GoogLeNet
22の層を持った事前学習済みの畳み込みニューラルネットワーク。
注2)ニューラルネットワーク(CNN;Convolutional Neural Network)
人間の脳の神経細胞ネットワークを模倣し、数理モデル化したものの組み合わせ。
注3)Caffeフレームワーク
オープンソースのディープラーニングライブラリ。画像認識に特化しており、高速処理が可能。
研究方法
教師データ5,236症例98,564枚(H.pylori陽性742例、陰性3,649例、除菌後845例)の内視鏡画像で学習したCNNを用いて、検証データ847症例23,966枚(H.pylori陽性70例、陰性493例、除菌後284例)のH.pylori感染状態の識別能力を評価しました。
教師データ
CNNはH.pylori感染状態と胃の部位(噴門・胃体上部・胃体中部・小彎・胃角部・胃体下部・前庭部・幽門)を学習した。
● 5,236症例98,564枚
H.pylori感染状態
● 陽性:742名
● 陰性:3,649名
● 除菌後:845名
患者はH.pylori感染を下記いずれかの検査で実施した。
● 血中/尿中H.pylori IgG抗体検査
● 便中抗原検査
● 尿素呼気試験
H.pylori感染状態の定義
● 陽性:上記いずれかの検査で陽性と判定された患者
● 陰性:上記の検査で陰性と判定され、除菌治療歴のない患者
● 除菌後:除菌治療が成功した患者
除外基準
● 拡大内視鏡画像
● 現在あるいは既往に胃がん、潰瘍、腺腫、ポリープ、粘膜下腫瘍のある患者の画像
● 内視鏡医がスクリーニングし、胃内の食物残渣、生検後の出血、ハレーションなど様々な理由で不明瞭だった画像
検証データ
871症例を検討データとし、
●847症例23,699枚
H.pylori感染状態
● 陽性:70名
● 陰性:493名
● 除菌後: 284名
H.pylori感染の検査については同上。
評価アルゴリズム
CNNは画像毎に、H.pylori感染状態の確率スコアとして0~1の数値を出力した。
結果
CNNの評価
● CNNによる23,699枚の画像診断時間は261秒だった。
● 最も確率スコアの高い感染状態を「CNN診断」と定義した場合の診断結果。
- 〇 23,699枚の診断の内訳
- ■ 陽性:418枚(1.8%)
- ■ 陰性:23,034枚(97.2%)
- ■ 除菌後: 247枚(1.0%)
不均衡な(陰性の割合が高い)結果となった。教師データに陰性のデータが多く含まれていたことや、陽性・除菌後の特徴的な所見を拾いにくかったことが要因と考えられた。
→H.pylori陰性の確率スコアを人為的に再定義した。
CNNが解析して得られたH.pylori陰性の確率スコアから定数を減じて、H.pylori陽性、除菌後の確率スコアと比較し、3つのうち最も高い数値を「CNN診断」と再定義した。
再定義後のCNN診断の結果
● CNNがH.pylori陰性と判断した582例のうち462例(80%)が正解だった。
● CNNがH.pylori除菌後と判断した174例のうち147例(84%)が正解だった。
● CNNがH.pylori陽性と判断した91例のうち44例(48%)が正解だった。
CNNによるH.pylori陽性と除菌後の判別
● H.pylori陽性患者70名のうち46名(66%)を正しく判別できた。
● H.pylori除菌後患者284名のうち243名(86%)を正しく判別できた。
結語
CNNを用いることで、内視鏡画像におけるH. pylori感染状態を非常に迅速に診断することができました。さらなる研究が必要ですが、内視鏡医がH. pylori感染状態を診断する際にCNNの導入がすすめられます。