PublicationsAI論文(胃)CNNによる早期胃癌の内視鏡診断2023/06/06

筆頭著者|野田 啓人
所属施設|日本医科大学多摩永山病院
ジャーナル名|BMC Gastroenterology

今回は、超拡大内視鏡を用いた胃がん診断におけるAIの精度について評価した論文を取り上げます。Noda H, Kaise M, Higuchi KらがBMC Gastroenterology誌に2022年に報告した”Convolutional neural network-based system for endocytoscopic diagnosis of early gastric cancer”です。

超拡大内視鏡(ECS; Endocytoscopy)を用いることで消化管粘膜細胞や腫瘍細胞をリアルタイムに直接観察することが可能で、高い精度の検査であれば生検を施行しなくても組織診断が可能になると考えられます。しかし、高い精度の検査を行うには適切な指導医による十分なトレーニングが必要であり、それが課題の一つとなっています。

本検討では、CNN(convolutional neural network)を用いた早期胃癌(EGC; early gastric cancer)に対するECS診断システムを構築し、内視鏡医3名(2名は熟練医、1名は修練医)と診断精度を比較しています。3名の平均とCNNの精度を比較すると、CNNの精度・感度が内視鏡医を上回るものであり、ECS診断におけるAIの精度が高いことを示す結果となっています。また、CNNは修練医を上回る診断精度を示しており、ECS診断に慣れていない内視鏡医にとってはAIが心強いサポーターとなってくれることが期待されます。

ここから、さらに論文の内容について詳しく解説していきます。

まず、training datasetとvalidation datasetからCNNを用いたECS診断システムを構築しています。training datasetとvalidation dataset には、61病変のEGCから得られた906枚の画像と、65病変のNGM (noncancerous gastric mucosa)から得られた717枚の画像を使用。

CNNを構築した後にtest dataset(39病変のEGCから得られた313枚の画像、33病変のNGMから得られた235枚の画像)を用いて検証を行っています。それぞれの画像についてprobability scoreを算出し、0.50をカットオフ値として判別を行っています。また、1つの病変に対してECS画像の半分以上がEGCに分類された場合に、その病変がEGCであると判断したこととしています。

CNNの性能の比較のため、内視鏡医3名も同じtest datasetの判定を行っています。参加した3名のうち2名は経験5年以上の習熟医、1名は経験2年以下の修練医でした。

Test dataset内の39病変は、38名のEGC患者からデータを得ています。(38名のうち男性が26名、女性が12名。患者の年齢の中央値は77歳。腫瘍径の中央値は18mm。いずれの症例でもESDを施行し病変を切除。3名はpT1b)。

CNNによる画像の判別ですが、548枚の解析を7.0秒で行い、AUCは93.0%でした。精度は 83.2%(456枚/548枚)で、感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率は、76.4%、92.3%、93.0%、74.6%でした。症例毎の解析では、EGC 39病変中32病変(感度82.1%)を、NGM 33病変中30病変(特異度 90.9%)を正しく判定しました。

CNNが正しく判定ができなかった画像を検討すると、偽陽性であったNGM 7病変18画像は内視鏡医も少なくとも1名は誤判断していました。また偽陰性であったEGC 28病変 74画像は染色が不十分だったり、フォーカスがあっていないことが原因であったと推測されました。

内視鏡医による画像の判別ですが、全ての画像の確認に20分以上の時間がかかり、精度・感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率は、76.8%、73.4%、81.3%、83.9%、69.6%でした。

熟練医2名と比較すると、病変毎の比較では有意差はみられないものの、画像毎の比較では熟練医の方が感度は高く、特異度はCNNの方が高い結果となりました。

修練医1名との比較では、画像毎の比較では、全ての項目でCNNの方が優位な結果であり、病変毎の比較でも精度・感度においてCNNの方が優位な結果でした。

考察の中で著者らは、生検が不可能な場合や病理診断が困難な場合に、CNNを用いたECS診断システムが従来の内視鏡診断を補完するツールとして有用であろうと述べています。

本記事内では取り上げていませんが、論文内にはAIによる解析をヒートマップで表示し、EGCやNCMでどのような部分でAIが反応しているのかわかるようになっています。各内視鏡医の成績などもそれぞれtableに示されておりますので、ご興味いただけた方は是非、論文もご覧ください。

Convolutional neural network-based system for endocytoscopic diagnosis of early gastric cancer