PublicationsAI論文(胃)AIを活用した内視鏡画像診断システムの開発2022/08/31

がん研究会有明病院・平澤俊明先生が『Gastric Cancer』誌(2018年)に発表した、「世界初・AIを活用した胃がん拾い上げ診断支援システム」に関する論文です。

Application of artifcial intelligence using a convolutional neural network for detecting gastric cancer in endoscopic images

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はじめに

上部消化管内視鏡検査では、胃がん診断の偽陰性率が4.6-25.8%であると言われています。胃がんのほとんどが萎縮性粘膜から生じることや、早期病変は背景粘膜との区別が難しいことが多く、特に経験の浅い内視鏡医は見逃しやすいケースがあります。
このような課題の解決を目指し、本研究では最先端のAI注1)技術であるニューラルネットワーク注2)を用いたディープラーニング注3)を活用し、胃がんの内視鏡画像を機械学習させたAIによる胃がんの病変検出力を検証しました。

研究方法

13,584枚の胃がん内視鏡画像を収集し、機械学習させたAIを開発しました。AIによる胃内視鏡画像2,296枚の検証画像に対する病変検出力を検証しました。

結果

AIは77病変中71病変(92.2%)、直径6mm以上の病変は71病変中70病変(98.6%)を検出しました。2,296枚の画像の解析速度はわずか47秒でした。感度は92.2%、陽性的中率は30.6%でした。

結論

AIは1枚あたり0.02秒の速さで検証画像から胃がんを検出しました。今後、AIが日常診療に導入され、内視鏡医の業務負荷の軽減に貢献することが期待されます。

※便宜上、本研究の「ニューラルネットワークを用いたAI診断システム」の表記を「AI」と統一しています。
なお、画像を検出するアルゴリズムとして、Single Shot MultiBox Detector注4)を使用しました。

注1)AI(=artificial intelligence)
注2)ニューラルネットワーク(CNN;Convolutional Neural Network)
人間の脳の神経細胞ネットワークを模倣し、数理モデル化したものの組み合わせ。
注3)ディープラーニング
ニューラルネットワークの層を増やすことにより、画像認識などの処理能力を画期的に向上させた機械学習の一形態。
注4)Single Shot MultiBox Detector(=SSD)
機械学習を用いた一般物体検知のアルゴリズム。 深層学習の技術を使い、多種類の物体を高速で検知する。

研究方法

13,584枚の胃がん内視鏡画像を機械学習させたAIを開発し、AIによる胃内視鏡画像2,296枚の検証用画像に対する病変検出力を検証した。

条件

教師画像(13,584枚)

● 胃がん病変2,639画像の病変部分を手作業でマーキングし、機械学習を行った
● 対象:通常白色光(white-light imaging;以下、WLI)、インジゴカルミンを散布した色素内視鏡及びNBI(Narrow-band imaging)画像
● 除外基準:拡大画像、空気注入が少ない、生検後の出血、ハレーション、ぼけ、焦点のずれ、粘液の多いものなど質の悪い画像

検証画像

● 胃がん患者(69名)から収集した77病変2,296枚の画像を使用

    〇 胃がん画像は714枚(31.1%)
    〇 胃内の全部位をWLIで撮影した
    〇 除外基準:色素内視鏡、NBI、質の悪い画像

AIによる診断方法

● 内視鏡画像中の胃がんが疑われる病変を黄色の矩形で表示した

    〇 1つの病変を複数枚撮影しているため、そのうち1つでも拾い上げていれば正解とした
    〇 病変の境界線が不明瞭な場合、部分的に病変を捉えていれば正解とした

結果

● AIは2,296枚の検証用画像を47秒(1枚あたり0.02秒)の速さで解析した

    〇 計232病変を胃がんとして拾い上げた
     ■ 77病変のうち71病変を胃がんと正しく診断
     ■ 161病変は非がん病変であった
    〇 直径6mm以上の71病変中70病変(98.6%)を検出
    〇 T1b以上の深達度の浸潤がんは全て検出
    〇 偽陽性となった主な要因は下記の通り
     ■ 状態:色調変化または粘膜不整を伴う胃炎(発赤、萎縮、腸上皮化生)
     ■ 部位:噴門・幽門・胃角噴門や胃角部、幽門などの内視鏡医であれば判別可能な構造を胃がんと判断
     ■ 陽性的中率は30.6%であった
    〇 見落とし症例(6病変)
     ■ 6つとも経験豊富な内視鏡医でも胃炎と鑑別が難しいと考えられる表在型、分化型の粘膜内癌。
     ■ 5病変は5mm以下の微小がん

結論

●内視鏡診断支援システムのAI胃がん拾い上げ診断支援AIは、1枚あたり0.02秒の速さで検証画像から胃がんの検出を行った
●今後はAIが日常診療に導入され、内視鏡医の業務負荷の軽減に貢献することが期待される