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本論文は大阪国際がんセンター・七條智聖先生が『EBioMedicine』誌(2017年)に発表した、「AIを活用したヘリコバクター・ピロリ感染の診断支援」に関する論文です。
本記事では医師の目線で論文を解説していきます。
Application of Convolutional Neural Networks in the Diagnosis of Helicobacter pylori Infection Based on Endoscopic Images
はじめに
ヘリコバクター・ピロリ(以下、H.pylori)感染は胃がん発症の主要な原因として挙げられています。上部消化管内視鏡検査はH.pylori感染の診断に有用です。しかし、内視鏡所見から診断するためには時間をかけ修練する必要があります。内視鏡医の熟練度により診断精度に差が出るケースもあり、これまで課題とされてきました。
このような課題の解決を目指し、本研究では最先端のAI注1)技術であるニューラルネットワーク注2)を用いたディープラーニング注3)を活用し、胃内視鏡画像を機械学習させたAIによるH.pylori感染診断について検証しました。
研究方法
H.pylori感染を学習したAIと、H.pylori感染と胃の部位(8部位;噴門・胃体上部・胃体中部・小彎・胃角部・胃体下部・前庭部・幽門)を学習したAIを作成し、この2種類のAIと内視鏡医(23名)が検証画像11,481枚(397名の患者から収集)のH.pylori感染を診断し、感度、特異度、精度、および診断速度を比較しました。
結果
感度・特異度・精度の比較
診断速度の比較
※便宜上、本研究の「ニューラルネットワークを用いたAI診断システム」の表記を「AI」と統一しています。
なお、画像を診断するアルゴリズムとして、GoogLeNetを使用しました。
注1)AI(=artificial intelligence)
注2)ニューラルネットワーク(CNN;Convolutional Neural Network)
人間の脳の神経細胞ネットワークを模倣し、数理モデル化したものの組み合わせ。
注3)ディープラーニング
ニューラルネットワークの層を増やすことにより、画像認識などの処理能力を画期的に向上させた機械学習の一形態。
研究方法
AIと内視鏡医(23名)が検証画像11,481枚(397名の患者から収集)のH.pylori感染を診断し、感度、特異度および精度を比較した。
内視鏡医の内訳
● 日本消化器内視鏡学会(JGES)認定専門医6名
● 経験豊富なグループ9名 (上部消化管内視鏡検査・施行数 1000件以上)
● 初心者グループ8名 (上部消化管内視鏡検査・施行数 1000件以下)
条件
検証用AIの概要
以下の2種類のAIを用意
● H.pylori感染を学習したAI
● H.pylori感染と胃の部位(8部位;噴門・胃体上部・胃体中部・小彎・胃角部・胃体下部・前庭部・幽門)を学習したAI
教師画像
● 患者数:1750名
● 枚数:32,208枚
- 〇 分類
- ■ H.pylori陽性(735名)
- ■ 陰性(1015名)
- 〇 患者の検査方法
- 患者はH.pylori感染を下記いずれかのうち1つ以上の方法で検査した
- ■ 血中/尿中H.pylori IgG抗体レベル試験
- ■ 糞便抗原試験
- ■ 尿素呼気試験
- 〇 除外基準
- ■ H.pylori除菌治療歴のある患者
- ■ 胃がん、胃潰瘍、胃粘膜下腫瘍が認められた患者。また、これらの既往歴がある患者
- ■ 胃内の食物残留、生検後の出血、ハレーションなどによる不明瞭な画像
- ■ 拡大画像
検証画像
本研究のAIと内視鏡医の比較検証のために以下の画像を用意
● 患者数:397名
- 〇 H.pylori陽性:72名
- 〇 陰性:325名
● 枚数:11,481枚
解析方法
AIを用いて各画像のH.pylori感染の有無について確率を算出した。また、アルゴリズムに基づいて患者毎の感染の確率を算出した。
結果
AIの性能評価
2種類のAIの性能評価のためROC曲線を作成し、AUCを算出した。
● H.pylori感染を学習したAI:0.89
● H.pylori感染&胃の部位を学習したAI:0.93
AIと内視鏡医の比較
● H.pylori感染を学習したAIは、感度、特異度、精度のいずれにおいても23名の内視鏡医と有意な差は認められなかった。
● H.pylori感染と胃の部位を学習したAIは、感度と特異度に有意な差は認められなかったが、精度は内視鏡医よりも5.3%有意に高かった。
結果は下記の通りであった。
(それぞれ左から、感度、特異度、精度、解析時間の順)
内視鏡医間の比較
JGES認定専門医グループと経験豊富なグループ、初心者グループの結果は下記の通りであった。
結論
● H.pylori感染の診断支援AIは、内視鏡医よりはるかに速い速度で画像を解析し、感染の有無を判定することができた。
● AIがH.pylori感染にかかる診断時間を短縮し、内視鏡医の業務量削減に寄与することが期待される。