PublicationsAI論文(食道)CNNを活用した内視鏡による食道扁平上皮癌の自動診断2022/08/31

本論文は大阪国際がんセンター(当時)・大森正恭先生が『GASTROINTESTINAL ENDOSCOPY』誌(2019年)に発表した、「CNNを活用した内視鏡による食道扁平上皮癌の自動診断」に関する論文です。

Endoscopic detection and differentiation of esophageal lesions using a deep neural network

はじめに

食道扁平上皮癌(SCC)の診断は難しく、内視鏡医の熟練度に依存し、医師による診断精度のばらつきなどが問題となります。このような課題の解決を目指し、本研究ではSingle Shot MultiBox Dotector注1)アーキテクチャに基づいたConvolutional Neural Network(以下、CNN)注2)を開発し、学習と検証を実行しました。なお、CNNアーキテクチャはCaffeフレームワーク注3)で実現しました。
上記を用いて、食道内視鏡画像を機械学習させたCNNによる食道病変の診断精度について検証しました。

研究方法

表在性SCCの画像(非拡大内視鏡画像9591枚および拡大画像7844枚)と、非がん病変/正常の画像(非拡大画像1692枚および拡大画像3435枚)を用いて学習させたCNNを作成し、このCNNと経験豊富な内視鏡医(15名)が、135名の患者から得られた内視鏡画像(255枚の非拡大白色光画像、268枚の非拡大狭帯域画像(Narrow Band Imaging; NBI もしくは Blue Laser imaging;BLI)、204枚の拡大NBI/BLI画像)の食道SCCを診断し、感度、特異度、精度を検証しました。

結果

感度、特異度、精度は以下の通りでした。
いずれもCNNと内視鏡医で統計学的有意差はありませんでした。

非拡大NBI/BLI画像での検証

非拡大NBI/BLI画像での検証

非拡大白色光画像での検証

非拡大白色光画像での検証

拡大画像での検証

拡大画像での検証

考察

CNNは非拡大内視鏡画像から高感度で食道SCCを検出することができ、拡大内視鏡画像では高精度でSCC/非がん病変を鑑別することが可能でした。将来的には食道SCCの診断をサポートする診断支援システムとしての応用が期待されます。

注1)Single Shot MultiBox Dotector
機械学習を用いた一般物体検知のアルゴリズム。
注2)ニューラルネットワーク(CNN;Convolutional Neural Network)
人間の脳の神経細胞ネットワークを模倣し、数理モデル化したものの組み合わせ。
注3)Caffeフレームワーク
オープンソースのディープラーニングライブラリ。画像認識に特化しており、高速処理が可能。

研究方法

教師画像により学習したCNNと、15名の経験豊富な内視鏡医(消化器内視鏡専門医かつ経験年数8-24年、経験症例数2,500-20,000例)が、135名の患者から得られた検証用画像で食道SCCを診断し、感度、特異度、精度を比較した。

非拡大画像を用いた検出精度、拡大画像を用いた鑑別精度の検証に加え、実臨床での使用を想定し、非拡大画像で癌を疑う病変の検出を行ったのち拡大画像で鑑別を行う Diagnostic flowでの検証も行った。

教師画像

病理学的に表在性SCCと確定診断された804病変から得られた内視鏡画像(非拡大内視鏡画像9591枚および拡大画像7844枚)と、正常部の内視鏡画像(非拡大画像1692枚および拡大画像3435枚)を使用した。
白色光と、NBI/BLI、色素内視鏡(ヨード染色)画像を使用した。

除外基準:SCC以外の組織型、化学療法または放射線療法の既往、潰瘍または潰瘍瘢痕、拡張不良・出血・ハレーション・ブレ・ピンボケ・粘液付着などにより画質の悪いものは除外した。

検証用画像

135名の患者から得られた、食道SCCおよび非がん部を含む画像データセット(255枚の非拡大白色光内視鏡画像、268枚のNBI/BLI画像、204枚の拡大NBI/BLI画像)を検証した。
非がん病変の画像には、GERD、血管異常、軽度の色素沈着、グリコーゲンアカントーシス、白斑などの異常が含まれた。バレット食道は除外された。

135名の内訳:SCC 52名、正常 33名、非がん病変 50名であった。

結果判定

それぞれの患者から代表的な画像 4~6枚を選択した(非拡大白色光画像1~2枚、非拡大NBI/BLI画像1~2枚、拡大NBI/BLI画像1~2枚)。それぞれの画像を独立して判定を行った。
●全ての画像について非がん病変であると判断した場合→非がん病変
●4~6枚の画像のうち1枚でもSCCと判定した場合→SCC

結果

感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率、精度は以下の通りであった。

非拡大画像での病変検出の検証

NBI/BLI

NBI/BLI

白色光

白色光

●拡大画像での病変鑑別(SCC/非がんの鑑別)の検証

NBI/BLI

NBI/BLI

Diagnostic flow (非拡大画像で病変を検出し、拡大画像で鑑別)での検証

Diagnostic flow (非拡大画像で病変を検出し、拡大画像で鑑別)での検

※カッコ内は以下
感度:正しく癌と診断された領域/全ての癌領域
特異度:正しく非癌と診断された領域/全ての非癌領域
陽性的中率:真の癌領域/癌と診断された領域
陰性的中率:真の非癌領域/非癌と診断された領域
精度:正しく診断された領域/全領域

Diagnostic flowでの感度において、CNNが内視鏡医を上回った(p=0.046)。
その他には統計学的な有意差は認められなかった。

診断速度

全画像の診断に要した時間は以下の通りであった。
CNN 22秒
内視鏡医 平均 210秒 (120-600秒)

考察

CNNは経験豊富な内視鏡医と同様、非拡大内視鏡画像から高感度で食道SCCを検出することができ、拡大内視鏡画像では高精度でSCC/非がん病変を鑑別することできた。将来的には食道SCCの検出や鑑別をサポートする診断支援システムとしての応用が期待される。