PublicationsAI論文(食道)AIを活用した食道がんの診断支援システム2022/08/31

がん研有明病院(現所属:東邦大学医療センター大橋病院)・堀江義政先生が『Gastrointestinal Endoscopy』誌(2019年)に発表した、「世界初・AIを活用した食道がん拾い上げ診断支援」に関する論文です。

Diagnostic outcomes of esophageal cancer by artificial intelligence using convolutional neural networks

はじめに

初期の扁平上皮がんは白色光(white-light imaging;以下、WLI)のみでの内視鏡診断が難しく、ハイリスク患者のスクリーニングに好ましいとされるヨード染色は胸痛や不快感、処置時間の増加などの問題があります。NBI(Narrow-band imaging;狭帯域光観察)は医師が実施しやすく患者への負担が少ないなど、ヨ―ド染色よりも優れた点があります。しかし、経験の浅い内視鏡医が使用した場合、食道扁平上皮がんの検出が十分でないケースが指摘されています。
このような課題の解決を目指し、本研究では最先端のAI注1)技術であるニューラルネットワーク注2)を用いたディープラーニング注3)を活用し、食道がんの内視鏡画像を機械学習させたAIによる食道がんの病変検出力を検証しました。

研究概要

8,428枚の食道がん内視鏡画像を収集し、機械学習させたAIを開発しました。AIによる食道内視鏡画像1,118枚の検証画像に対する病変検出力を検証しました。

結果

AIは1,118枚の病変画像を27秒(1枚あたり約0.02秒)で解析しました。食道がん検出感度は98%でした。

結論

AIは高感度かつ非常に短時間で食道がんを検出しました。AIをさらに機械学習させ診断精度を向上すれば、将来的には実臨床下での食道がん早期発見や予後改善への貢献が期待できます。

※便宜上、本研究の「ニューラルネットワークを用いたAI診断システム」の表記を「AI」と統一しています。
なお、画像を検出するアルゴリズムとして、Single Shot MultiBox Detector注4)を使用しました。

注1)ディープラーニング
ニューラルネットワークの層を増やすことにより、画像認識などの処理能力を画期的に向上させた機械学習の一形態。
注2)ニューラルネットワーク(CNN;Convolutional Neural Network)
人間の脳の神経細胞ネットワークを模倣し、数理モデル化したものの組み合わせ。
注3)AI(=artificial intelligence)
注4)Single Shot MultiBox Detector(=SSD)
機械学習を用いた一般物体検知のアルゴリズム。 深層学習の技術を使い、多種類の物体を高速で検知する。

研究方法

8,428枚の食道がん内視鏡画像を機械学習させたAIを開発し、AIによる食道内視鏡画像1,118枚の検証画像に対する病変検出力を検証した。

条件

教師画像

    ● 食道がん患者(384名)から収集した8,428画像の病変部分を全て手作業でマーキングし、機械学習を行った(著者1人で施行)
    ● 扁平上皮がんあるいは腺がんと診断された病変
     ■ 扁平上皮がん397病変(表在がん332病変、進行がん65病変)
     ■ 腺がん32病変(表在がん19病変、進行がん13病変)

検証画像

    ● 食道がん患者(47名)と非食道がん患者(50名)から収集した1,118枚を使用
     ■ 食道がん画像:扁平上皮がん41病変、腺がん8病変をWLIおよびNBIで撮影した画像(がん病変画像162枚と非がん病変画像376枚)
     ■ 非食道がん画像(573枚)

除外基準

    ● 拡大画像、空気注入が少ない、生検後の出血、ハレーション、ぼけ、焦点のずれ、粘液が多い画像

AIによる診断方法

内視鏡画像中の食道がんと判断した病変を白の矩形で表示した

AIによる診断性能評価の定義

    ● がんの一部でも認識できた場合は正解(ただし、表示した枠内にがんがあっても、枠の80%以上が非がん部位の場合は不正解)
    ● 非がんをがんと認識したものは偽陽性(1患者に2病変みとめられた場合は、両方とも認識できた場合のみ正解)
    ● WLIあるいはNBIのどちらか一方でも認識できた場合には正解

結果

AIは1,118枚のテスト画像を27秒で解析し、食道がんの検出感度は98%であった

各症例のAIによる診断

    ● 食道がん患者47名のうち46名で病変拾い上げができた(感度98%)
    ● 10mm未満の7つの病変は全て拾い上げた
    ● 感度はWLI81%、NBI89%。NBIの方が感度は高かったが有意差は認められなかった。
    ● WLIとNBIの併用による感度は、WLI単独の場合よりも顕著に高かった
     ■ 食道扁平上皮がんの検出感度 併用 97%:WLIのみ79%、NBIのみ89%
     ■ 食道腺がんの検出感度 併用 100%:WLIのみ88%、NBIのみ89%

各画像のAIによる診断

    ● 162枚の食道がん画像から125病変を検出した(WLI・NB併用:感度 77%)
    ● 特異度79%、陽性的中率39%、陰性的中率95%
    ● 精度
     ■ 進行度:表在性がん99%(142/143)、進行がん92%(23/25)
     ■ 組織型:扁平上皮がん99%(146/147)、腺がん90%(19/21)

偽陽性と偽陰性の主な原因

偽陽性

    ● 影(食道胃接合部、左主気管支および椎体部分に多く見られた)

偽陰性

    ● 半数が病変から遠すぎる、病変の一部のみしか写っていないもの
    ● 背景粘膜の食道炎症

良性病変をがんと誤診したもの

    ● 内視鏡下切除瘢痕
    ● 限局性萎縮

見逃し

    ● WLI下では内視鏡医でも判別が難しいと思われる食道扁平上皮がんの見逃しがあった
    ● バレット食道腺がん4病変は、症例が少なく、AIの教育が不十分であったことが考えられる

結論

    ● AIは高感度かつ非常に短時間で食道がんを拾い上げた
    ● AIをさらに機械学習させ診断精度を向上すれば、将来的には実臨床下での食道がん早期発見や予後改善への貢献が期待できる