PublicationsAI論文(食道)食道扁平上皮癌発見のためのAIシステムの有用性2022/08/31

本論文は大阪国際がんセンター・脇幸太郎先生が『Digestive Endoscopy』誌(2021年)に発表した、「食道扁平上皮癌発見のための人工知能システムの有用性(病変が見逃されたシチュエーションでの評価)」に関する論文です。

Usefulness of an artificial intelligence system for the detection of esophageal squamous cell carcinoma evaluated with videos simulating overlooking situation

はじめに

人工知能(AI)システムは、これまでの研究で食道扁平上皮癌(ESCC)の発見に有用であることが示唆されていますが、その検証時に静止画や病変部にフォーカスした動画を用いていたため、実際の内視鏡検査で本当に役に立つかどうかは未知数でした。本研究ではESCCが見落とされた状況を想定し、そのような動画でもAIが病変の発見に有効であるかを検証しました。

研究方法

1,376の表在性ESCCの画像17,336枚と、196の非がん病変および正常食道粘膜の画像1,461枚を学習画像データとして解析しAIを作成しました。妥当性の検証のため、病変部にフォーカスすることなく一定の速度で食道を通過した、すなわち病変が見落とされた状況を想定したビデオを撮影し、AIおよび21人の内視鏡医がそのビデオを評価し病変検出の精度を比較しました。

結果

ESCC 63病変を含む表在性ESCCのビデオ50本、非がん病変のビデオ22本および正常食道からなるビデオ28本、計100本の映像を使用し検証しました。AIはESCCを感度85.7%(54/63)、特異度40%で識別しました。AIを使用しない内視鏡医の初期評価は感度75.0%(47.3/63)、特異度91.4%でした。AIの補助ありだと、内視鏡医による評価は感度77.7%(p=0.00696)まで上昇しました。特異度に変化はありませんでした(91.6%、p=0.756)。

結語

AIシステムはESCCを高い感度で検出できました。AIシステムを補助ツールとして使用すると、内視鏡医は特異度を損なうことなく、よりESCCを発見しやすくなる可能性が示唆されました。

研究方法

1,376の表在性ESCCの画像17,336枚と、196の非がん病変および正常食道粘膜の画像1,461枚を学習画像データとして解析しAIを作成。100本のSCCの内視鏡動画で診断能を検証した。また21名の内視鏡医が同じ動画をAIの補助あり/なしで評価し診断能を比較した。

教師データ

病理学的に証明された1,376の表在性ESCCの画像17,336枚と、196の非がん病変および正常食道粘膜の画像1,461枚。動画については静止画に分割して抽出した。それぞれの画像について、病変の境界線を手作業でマーキングした。

検証データ

ESCC 63病変を含む表在性ESCCのビデオ50本、非がん病変のビデオ22本および正常食道からなるビデオ28本、計100本の映像を使用し検証した。白色光、NBI/BLI双方を使用。
50本の表在性ESCCの動画について
50本の動画内にESCC 63病変。(2病変含むビデオ 9本、3病変含むビデオ 2本)
腫瘍のサイズの中央値:26mm(5mm ~ 140mm)
腫瘍の深達度:EP-LPM 39 例、MM 10例、SM1 3例、SM2-3 4例

除外基準

進行癌、食道への手術・放射線治療の既往、ESCCに対する内視鏡治療の既往

● ESCCが見逃された状況を想定した動画を得るため、拡大内視鏡を使用せず(non-ME)、一定の速度で上部食道から胃食道接合部(EGJ)まで10-15秒で挿入し、同様に10-15秒で引き抜き撮影した。
● AIはESCCを評価し、その診断について0~1の確率スコアを算出した。3フレーム連続して0.60以上のスコアがみられた場合にAIがESCCと診断したと判定した。
● 21名の内視鏡医(経験年数は7名が2年以下、6名が3-10年、8名が11年以上)が、まずAI補助なしで白色光、NBI/BLIの動画を評価した。その6週間後にAI補助ありでNBI/BLIの映像を評価し、その結果を比較した。

結果

白色光の動画においてESCCを診断する精度

AI:ESCC 63病変のうち49病変を指摘。偽陽性は36本。
感度 77.8%、特異度 28%
AI補助なし内視鏡医:ESCC 63病変のうち平均 35.3病変を指摘。偽陽性は平均6.1本。
感度 56.1%(36.5-69.8%)、特異度 87.7%(50.0-100%)

NBI/BLIの動画においてESCCを診断する精度

AI:ESCC 63病変のうち54病変を指摘。偽陽性は30本。
感度 85.7%、特異度 40%

AI補助なし内視鏡医

ESCC 63病変のうち平均 47.3病変を指摘。偽陽性は平均4.3本。
感度 75.0%(58.7-90.5%)、特異度91.4%(50.0-100%)

AI補助あり内視鏡医

ESCC 63病変のうち平均 49.0病変を指摘。偽陽性は平均4.2本。
感度 77.7%(61.9-87.3%)、特異度 91.6%(62.0-100%)
● AIのアシストにより内視鏡医の感度が2.7%改善した(P=0.00696)。内視鏡医21名中15名の感度の改善がみられた。2名は不変、4名は感度が低下。
● 特異度の低下はみられなかった(P=0.756)。

NBI/BLIで検出あるいは見逃した病変の特徴

● AIが見逃したESCCは9病変。内視鏡医が半数以上見逃したESCCは15病変。
● AIが見逃した病変は、検出した病変よりも腫瘍径の小さいESCCだった(腫瘍径 15mm(missed) vs. 30mm(detected), P=0.01)。内視鏡医は腫瘍径による差がみられなかった(20mm(missed) vs. 27mm(detected))。
● AIは1/2周以上ある20病変を全て検出したが、内視鏡医は2病変見逃しがあった。

結語

AIシステムはESCCを高い感度で検出できた。またAIシステムを補助ツールとして使用すると、内視鏡医は特異度を損なうことなく、よりESCCを発見しやすくなる可能性が示唆された。