Article内視鏡医「”医師の本能”を刺激するようなシステムが時代を変える-前編-」本田孝也先生2022/08/31

「”医師の本能”を刺激するようなシステムが時代を変える-前編-」本田孝也先生

目次

長崎県に位置する歴史ある診療所・本田内科医院の院長である本田孝也先生。地域医療に従事しながら、長崎県保険医協会の会長として、学術研究会や講習会、情報発信などの活動も行っています。更に独学で学びながらシステム開発に携わる等、コンピューターにも造詣が深い本田先生は、内視鏡AIへ深い関心を寄せているとのこと。インタビュー前編では本田先生のご経歴や、長崎保険医協会でのお取り組みについて伺いました。

初めて受け持った患者さんは希少疾患。図書館での「大量のデータ検索」が解決の糸口に

先生が内視鏡医の道を選んだ理由を教えてください。

1979年に慶應義塾大学医学部を卒業後、研修医としていろいろな診療科で経験を積むなかで、最初に配属されたのが消化器内科でした。そこでの経験が、私の医師人生の方向性を決めたといえます。

最初に受け持った患者さんは、20代の女性でした。腹部に腫瘍が二つあり、体重はなんと20kg代前半ほどで、8年間闘病生活を送るなかで様々な病院を転々とされ、結局診断名がつかなかったという方でした。当時は若気の至りといいましょうか、「自分がこの患者さんを救ってあげたい!」と奮起していました。

そこで、慶應大学の図書館にあった文献検索サービスを利用して、情報集めをすることにしました。検索サービスと言いましても、当時は今ほどインターネットが普及しておりませんでしたので、調べたいキーワードを担当者に伝え、電話回線を使ってキーワードに合致する文献のリストをプリントアウトしてくれるという仕組みでした。今でいうディープランニングの原型といったところでしょうか。とにかく関連性がありそうなキーワードを片端からリストアップし、受け取った文献を読み漁ることに没頭しました。

そのようなことを1カ月ほど続けたとき、ある症例報告が目に入りました。世界でも数百例しかないという非常に稀な疾患の症例報告だったのですが、実は私が受け持っていた患者さんはまさにその疾患でした。その文献をもって指導医のところまで走ったことを今でも覚えています。その後、治療法についても同様に調べ、無事に治療をして無事に退院を見届けることができました。この体験が自分の糧になり、最終的には消化器内科を選び内視鏡医となりました。また、大量のデータを処理し、解決策の糸口を見つけるという経験が、私がコンピューター、そしてAIに関心を持つきっかけの一つになったと思います。

現在は長崎保険医協会の会長業務に尽力されています。協会に入ったのはどんなきっかけでしょうか。

1994年に東京から長崎に戻り、本田内科医院2代目院長に就任しました。当時から私はコンピューターに興味があったので、システム開発を独学で学んでおり、コンピューターに造詣が深い医師仲間も全国にたくさんいます。長崎に戻ってきてからは、病気の見逃しや保険の請求もれを防止するためのシステム開発に携わっていました。

そのような取り組みをする中で、「医師にとって役立つシステムなので、長崎の開業医の先生にもぜひ使ってほしい」と相談したのが、長崎保険医協会です。「これはいいシステムですね!」とお褒めの言葉をいただき、様々な医師との縁につながっていきました。このような取り組みを行っているうちに、長崎保険医協会の役員になり、常任理事になり、現在は会長を務めています。

「”医師の本能”を刺激するようなシステムが時代を変える-前編-」本田孝也先生(長崎保険医協会会長/本田内科医院 院長)

新しい便利なシステムを作るだけでは課題解決には至らない

長崎保険医協会ではどんな活動に力を入れていますか。

医療の充実を図るためのさまざまな活動をしていますが、特に私が力を入れているのがコンピューターを利用した業務効率改善のためのサービスの普及です。しかし、私が長年悩ましく思っていることは、多くの開業医の先生にとって、便利で新しいシステムは敷居が高いものだと映ってしまうことです。ですので、より良い医療を提供するため、医師の業務の負荷を軽減するために、新しいシステムを普及させることが重要であると考え、そのための活動を行っています。

例えば、現在レセプトは電子媒体またはオンライン請求で処理しますが、数十年前は紙媒体が一般的でした。私は、当時からコンピューターでレセプトをチェックするシステム開発を手がけており、医療機関が導入することで業務を効率化できると確信をもち、医師たちに勧めてきました。

今後、長崎保険医協会が取り組んでいきたいことについて教えてください。

コンピューターを利用した便利なシステムを、今以上に多くの医師に活用してもらいたいと考えています。がんの見逃しリスクを低減させる内視鏡AIには特に期待を寄せていて、株式会社AIメディカルサービス CEOの多田智裕先生に声をかけさせていただき、講演会を開催致しました。内視鏡AIは、専門医にも役立つと思いますし、経験の少ない非専門医のがん見逃し確率を下げることにも有効だと考えています。このような便利なツールを、開業医の皆さんに積極的に利用してもらうべく普及に努めていきたいです。