Article内視鏡医「内視鏡診療において様々な課題がある中で、内視鏡医の期待、想像を超えるAIを創ってほしい~前編~」内藤裕二先生(京都府立医科大学 生体免疫栄養学講座 教授)2022/08/31

「内視鏡診療において様々な課題がある中で、内視鏡医の期待、想像を超えるAIを創ってほしい~前編~」内藤裕二先生(京都府立医科大学 生体免疫栄養学講座 教授)

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gastroAI onlineでは、内視鏡医の先生に役立つ情報を発信しています。今回は、京都府立医科大学生体免疫栄養学(太陽化学)講座(寄附講座)にて教授を務められる内藤裕二先生に、内視鏡診療および内視鏡AIについてお話を伺いました。

内藤先生は、消化器専門医として現在も診療にあたりながら、最新医学にも精通しており各地で精力的に講演を行われています。また、生活習慣病や酪酸菌の研究のほか、京丹後長寿コホート研究で腸内フローラ解析に携わるなど、腸内細菌研究の第一人者という顔もお持ちです。

トップレベルの医療を京都府民に提供するために臨床へ注力

京都府立医科大学の理念と取り組みについて教えてください。

京都府立医科大学の理念は、「世界トップレベルの医療を地域へ」です。開学以来、京都府民のための医療を目標にしてきました。最新鋭の医療を府民のみなさんに還元するべく、すべての診療科が研究よりも臨床に力を入れています。

本学は2022年で150周年を迎える日本でも古い大学の1つで、内視鏡との関わりの歴史も古く、多くの内視鏡医を京都の病院に輩出することで、地域の内視鏡技術のレベル向上に貢献してきたと自負しています。また、施設間における紹介では紹介する医師の顔が見えるということが重要で、府下の開業医の先生方との強固なネットワークも構築しており、治療の成果を報告するなど地域連携も率先して行ってきました。

他の医師が見つけたものを切っているだけでは駄目

内藤先生が考える内視鏡診療が抱える課題とは何でしょうか?

「がんを見つける」という観点で、内視鏡医を育てる環境に課題があると考えています。私たちの時代とは違って、今の先生たちは大学病院での教育を経て医師になる人がほとんどですが、診断能力育成の目線で考えると矛盾があると思っています。がんを見つけることは私たちにとって大切な技術ですが、がんがすでに見つかった患者さんが来るところが大学病院です。つまり内視鏡医が、がんを自ら見つける力を養うには最適な環境ではないと考えています。他の医師が見つけた病変を切っているだけでは駄目で、切る技術だけでなく見つける技術も身につけなければ一人前の内視鏡医とはいえません。

学会の演題を見ても、がんを見つけることよりも、どう切除するべきか、どうESDを上手く使うべきか、そればかりに意識が向いているように思えます。京都では開業して内視鏡検査を行われている先生も多いので、内視鏡医が1人で検査を行うケースも少なくなりません。そして、早期胃がんの発見は難しいです。そのような状況で、これから内視鏡検診を普及させていくにあたっては、内視鏡医一人一人の実力を如何に伸ばしていけるかが、非常に大切だと考えています。

医療とは医師を幸せにするものではない

内視鏡診療の未来はどうなると思われますか?

今後は、内視鏡によるスクリーニングがさらに重要視されると思います。胃がんの治療においてはストラテジーがほぼ確立されており、治療とフォローアップをしっかり行えば胃がんが原因で死に至る可能性は大幅に低減できます。しかし、国内では年間約45,000人が胃がんで亡くなっています。新型コロナウイルスの影響もありますが、定期的に内視鏡検診を受診する人やピロリ菌除去をする人の数が伸びていないことが主な原因だと思います。これを解決することが、胃がん治療における理想的な未来だと思います。

そして、医療とは医師を幸せにするためのものではありません。患者さんを幸せにするためのものです。病変の切除ばかりに力を入れるのではなく、病気にならない人を増やすことを目指さなくてはなりません。内視鏡診療が向かうべき究極の目標とは、私たちの仕事がなくなることです。極端な例ですが、医師が内視鏡を捨てるときが来たら、みんな幸福になっているはずです。私たちは仕事がなくなって不幸になりますが。

「本当に完成するのだろうか」と感じた第一印象

当社より共同研究の提案があったとき、内視鏡AIにどのような印象を持ちましたか?

当初は胃や腸、十二指腸などの器官すら区別がつかない状態で、正直なところ本当に完成するか疑問でした。現時点でも、深達度が正確にわかるようなレベルには達していないでしょう。しかし、まだ課題はあるものの、現段階ではスクリーニングにおける医師の判断の確認には活用できるのではないかと思うようになりました。慢性胃炎の中に異常を見つけたときに、内視鏡AIとの診断の一致は、医師に安心感を与えるはずです。

内視鏡AIが出来上がっていく様子を見ていて、医師が内視鏡AIに頼り自らの診断を疎かにする時代が来るかもしれないとも感じました。しかし、若い人たちは柔軟ですので、これは私の杞憂かもしれません。内視鏡AIを使いこなすだけでなく、新しい試みをする医師も出てくることでしょう。新しい技術や取り組みをうまく活用するような人が、これからの新しい時代を担っていくと考えています。

ちなみに、私たち年寄りにはそれはできません。なぜなら、死ぬまで「機械には負けない!」と思っているからです。