Article内視鏡医精密検査・診断に特化—東大病院で培った技術により安全で正確な検査を届ける」山田篤生先生(お茶の水駿河台クリニック 院長)2022/09/02

精密検査・診断に特化—東大病院で培った技術により安全で正確な検査を届ける」山田篤生先生(お茶の水駿河台クリニック 院長)

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gastroAI onlineでは消化器内科の先生を中心にインタビューを行っています。今回はお茶の水駿河台クリニック 院長の山田篤生先生にお話を伺いました。山田先生は東京大学医学部附属病院(以下、東大病院)消化器内科で約17年勤務され、2021年4月よりお茶の水駿河台クリニックの内視鏡センター部長を、2022年4月からは同クリニック院長をお務めです。記事前半ではこれまでのご経歴やクリニックの運営について、後半では株式会社AIメディカルサービスと共同で行ったカプセル内視鏡AIの研究についてお話いただきました。

「患者さん一人ひとりを診たい」という気持ちがあった

山田先生がお茶の水駿河台クリニックへ移籍された背景を教えてください

約17年にわたる東大病院での勤務は臨床研究が中心であり、患者さんに還元したいという気持ちをずっと持って取り組んでいました。もちろん、大学病院で勤務する先生の中には、そのまま研究の道を究めようという先生もいらっしゃいます。ただ、私自身は研究の道よりも患者さん一人ひとりと向き合っていきたいという想いが強かったこと、理事長からお誘いいただいたことから、7年ほど前から非常勤講師として勤務していたこちらのクリニックで働くことにしました。

いろんな施設からのお誘いがあったのではないでしょうか?

確かにいろんなお話をいただいており、大きな病院の部長ポストにこないかというようなお誘いもありました。ただ、大きな組織の管理職という立場では、患者さん一人ひとりと向き合うことは難しい。東大病院で培った内視鏡の技術を目の前の患者さんに還元していくことが、自分の中では一番優先順位が高かったです。

精密検査・診断に特化、スタッフ全員で方向性を共有

お茶の水駿河台クリニックにはどのような印象をお持ちでしたか?

精密検査・診断に特化しており、その方向性をスタッフ全員が意識共有できていることが好印象でした。大学病院では医師それぞれが様々な分野の専門性を突き詰めるという多様性が重要ですが、患者さん一人ひとりと向き合いたいと考えていた私自身は、勤務するうちに、精密検査・診断に特化しているこの施設の方向性に共感を持てるようになりました。

お茶の水駿河台クリニックの受付 「精密検査・診断に特化—東大病院で培った技術により安全で正確な検査を届ける」山田篤生先生(お茶の水駿河台クリニック 院長)

実際にクリニックで検査を受けた患者さんの反応はいかがでしょうか?

検査の際に患者さんとお話する時間は長くはないのですが、このクリニックで検査してもらって良かったと思ってくださる患者さんは比較的多い印象です。次の年もフォローアップで来てくださっている患者さんも多いことを考えると、評価してもらえているのかなと思います。

また、患者さんの反応ではないですが、常に高い検査精度を維持しないと要精密検査となった患者さんを当院へ紹介して頂けないと思うので、紹介元の先生がたにも信頼してもらえる検査を提供し続けることが重要だと考えています。

東大病院での経験が検査中の判断を支える

東大病院で学んだ技術はクリニックにおいてどう生かされているのでしょうか?

例えば東大病院では早期胃がんの患者さんに対しを内視鏡治療を行う場合、その患者さんの胃の写真を皆で見て、「ここに病変がある」「こうやって治療しよう」というようなディスカッションを行います。もちろん私自身も多数の内視鏡検査を行いましたが、自分が手がけた症例だけでなく、ディスカッションを含めて数多くの症例を見てきた経験の中で、病変を見つける目を養ってきました。

また、検査・治療において「自分には技術があるから(多少難しそうな症例でも)チャレンジしても大丈夫」という考え方をするのではなく、患者さんに不利益となるリスクが高い場合は躊躇せずに専門病院に紹介するようにしています。東大病院ではその特性上、治療においてチャレンジングなことをしなければいけないような困難な症例にも出会います。そういった経験の中で「ここまでは安全」「これ以上やると合併症の危険が伴う」というような判断を的確にできるようになったと思います。

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クリニックではどれくらいの数の内視鏡検査を行われているのでしょうか?

上部・大腸内視鏡検査合わせて年間で7,000件以上を行っており、大きな病院に匹敵するぐらいの検査数をこなしていると思います。もちろん、検査スケジュールも結構タイトですし、私自身も東大病院にいたころよりもはるかに多くの検査数をこなしています。

ただ、自分自身の手を動かして診療を行うという意味で、これだけ多くの検査をさせていただいていることは内視鏡医としては本望だと考えています。クリニックには私を含めて3名の内視鏡医がいますが、同じ方向を向いてやっているので、みんな検査数が多くてもそれを苦に感じていないと思います。

正確な検査を届けることはもちろん、患者さんの安全に配慮する

今後クリニックをどのようにしていきたいと思いますか?

これからもクリニックの専門性を生かし、患者さんや紹介元の先生にも信頼してもらえるよう、正確な検査を届けられるようにしたいです。また、患者さんができる限り苦痛を感じないような検査にしたいと思います。

検査の結果が良くても悪くても、このクリニックにまた来たいと思ってもらえるようなクリニックを作っていく、そのためには患者さんの安全が最も重要です。患者さんをケガさせてしまったら元も子もありません。ですから、無理に解決しようとするのではなく引くところは引く、撤退すべき時は躊躇せず撤退するという考えを常に持ちながらこれからも検査を進めていきます。

「精密検査・診断に特化—東大病院で培った技術により安全で正確な検査を届ける」山田篤生先生(お茶の水駿河台クリニック 院長)

小腸カプセル内視鏡AI研究のパイオニアとして論文を多数発表した東大病院時代

カプセル内視鏡AIの開発のために、数万枚の病変をアノテーション

山田先生は東大病院時代に弊社とカプセル内視鏡のAIの研究をされていました

当時まだAIメディカルサービスが飯田橋にオフィスを構えていたころだったのですが、研究室の若手の医師を数人連れて、多田先生(AIメディカルサービス代表取締役CEO)に一緒に研究をやらせてもらえないかと嘆願しに行きました。胃がんや大腸ポリープに関するAIの研究が先行して進んでいたので、AI用の教師データを作成するためのアノテーション(AIが学習する上で必要なデータラベリング作業)のシステムができており、それを使いながら小腸カプセル内視鏡AI用のデータを作成していきました。共同研究施設の先生方の協力もあり、様々な小腸病変をトータルで4万〜5万枚くらいアノテーションを行いました。

4万~5万枚とは、かなりの数ですね

そうですね、かなり膨大な量でした。診療後に自宅に帰ってから作業するようなことも多かったです。小腸は病変の種類も多いので、AIを作り上げるうえではそうした病変をAIに学習させる必要がありましたし、精度を向上させることにかなり苦労しましたが、エンジニアの方と意見を出し合い少しずつですが精度を向上させることができました。大変ではありましたが、結果的には予定していた研究をすべて論文にすることができたので苦労は報われました。

当時、世の中で小腸カプセル内視鏡のAIの研究はほとんど進んでいなかったとか

当時はおそらく研究している人はいなかったと思います。海外にはいたかもしれないですが、日本では私たちが最初にやりはじめたと思います。しかし、どの分野においてもAIの開発競争は激しく、私たちも他の研究者に先を越されないためにもスピード感もって研究を進めました。

精度が高ければ現場の負荷軽減に

カプセル内視鏡AIの臨床導入の展望をお聞かせください

カプセル内視鏡による検査では1回の検査で5~6万枚の画像が撮影されるので、その中から病変だけを見つけ読影医の見逃しや負担を減らすことがAI開発の一番の目的でした。カプセル内視鏡で撮影された膨大な小腸の画像を読影するのに、慣れている医師でも30分はかかりますし、大腸のカプセル内視鏡だと1時間ぐらいかかってしまいます。

そのため、医師が確認すべき病変の画像のみをAIが洗い出してくれれば、読影にかかる現場のコストを大幅に削減できることが見込めます。精度については、一症例あたりに撮影される5~6万枚の画像の中から、AIが病変の可能性があると判断し医師の確認を要する画像を5%まで絞りこんでも、感度(ここでは病変の写った全画像のうち、AIが病変ありと判断できた割合)は95%以上にしてほしいとお願いし、実際それに近いものができました。精度を高めるため尽力してくれたエンジニアの協力も大きかったです。私の肌感覚としては、それくらいの精度を保つことができれば実臨床に使えるという印象をもっています。

ただ、企業が医療機器として販売する以上、厳しい薬事審査も通す必要がありますし、採算が見込めないと実臨床への導入は難しいと思います。小腸カプセル内視鏡のAIについては、現状は私たち医師ができることをこつこつと進めており、いつか先ほど述べたような課題を解決でき実臨床で使えるようになることを楽しみにしています。