Article内視鏡医「患者さんと一心に向き合い、地域施設と共に最先端医療の提供に徹する」田中心和先生(田中内科クリニック 院長)2022/09/02

「患者さんと一心に向き合い、地域施設と共に最先端医療の提供に徹する」田中心和先生(田中内科クリニック 院長)

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gastroAI onlineでは消化器内科の先生を中心にインタビューを行っています。今回は兵庫県神戸市に位置する田中内科クリニック 院長の田中心和先生にお話を伺いました。

田中先生はIHI播磨病院・神戸赤十字病院にて研修医として勤務され、その後に神戸大学医学部附属病院(以下、神戸大学病院)にて約10年勤務、2020年6月より同クリニックを開業し、院長をお務めです。また、現在も非常勤講師として神戸大学大学院医学研究科へ勤務されています。

内視鏡検査を中心に、地域の患者さんのニーズにかかりつけ医として幅広く対応

田中内科クリニックの特徴について教えてください

かかりつけ医としての地域医療のことと、私の専門とする内視鏡検査の2つを柱としてクリニックを運営しています。かかりつけ医としての役割としましては、一般的な生活習慣病から急性期の疾患まで対応しています。

私は消化器専門の医師なのですが、同時に総合内科の専門医の資格も持っておりますので、それを生かして広く対応するようにしています。ただ、診療する以上は専門外の部分でも最新の知識を取り入れていかなければいけないので、コロナ渦で増えてきたウェブ研究会等を積極的に活用しています。

また、緊急対応が必要な患者さんも時々来られまして、緊急の処置や入院等が必要だと判断した場合には、できるだけ早く専門の施設へ紹介するようにしています。

最初から開業を目指されていたのでしょうか

いえ、医師になりたての頃はとにかく専門性を高めたいと考えていましたので、開業は考えておりませんでした。開業を考えるようになったのは4年ほど前で、医師である父が高齢になり、父が今まで診てきた患者さんを診てあげられなくなるのはかわいそうでしたし、あとは父にできるだけ働いてもらいたいと考えるようになり、開業に至りました。

兵庫県神戸市の田中内科クリニック 「患者さんと一心に向き合い、地域施設と共に最先端医療の提供に徹する」田中心和先生(田中内科クリニック 院長)

「患者さんがいかに楽に受けられるか」を追求することで精度の高い検査を提供

内視鏡検査における取組みを教えてください

内視鏡検査に関しては私の最も得意としている分野でありまして、先進施設のクオリティを地域の患者さんにスピード感をもって提供することをモットーにしてやっております。検査数は時期によってばらつきはあるのですが、おおよそ月に100件から130件程度です。

開業してみて気づいたことは、内視鏡に抵抗のある患者さんが結構多いということです。ですから寝ている間に終わらせられるよう、今はほとんどの患者さんに麻酔を使って検査をしています。

麻酔を使うことは患者さんの負担を軽減するという意味ももちろんあるのですが、患者さんの体動が少なくなることによって、より精密な検査が可能になるので、医師側にとっても利点もあるのかなと思っています。

また、大腸の検査におきましては、多くの患者さんが「下剤を飲むのがしんどい」と言われますので、薬液量が少なく、かつ飲みやすい味の腸管洗浄剤を主に使用しています。2回に分けて飲むのですが、量は150ccだけ。それもオレンジジュースみたいな味です。患者さんからは、「これまでの下剤よりも飲みやすかった」という好評の声を多くいただいております。

検査結果が悪かった場合、どのように対応されていますか?

やはり検査をしていて進行がんがみつかることはありますし、それを伝えると患者さんやご家族は非常にショックを受けられます。そのようなケースにおいては、「できるだけ早く次の検査や治療ができるようにスケジュールを私が今から立てます」と伝え、本当に急ぐ時はよく知っている先生とプライベートのコミュニケーションツールを使い、飛び入りで診て頂いたりする等、迅速な対応を心がけています。これまでの勤務歴の中で築いてきた関係性を活用させていただき、もっと短く、よりスムーズな治療を提供できるよう、実践しています。

田中内科クリニックの受付 「患者さんと一心に向き合い、地域施設と共に最先端医療の提供に徹する」田中心和先生(田中内科クリニック 院長)

世界一の手技を持つ豊永先生に学び、自身の技術を高めた神戸大学病院時代

内視鏡検査については、どのように専門性を高めたのでしょうか?

元々手技のできる科を希望していました。学生実習で消化器内科を回った際に内視鏡の検査を見て興味をもち、将来は内視鏡を専門とする消化器内科医になろうと思いました。

専門性を高めることができたのはこれまで勤務してきた病院の上司にいつも恵まれていたことが大きいと思います。特に神戸大学病院で直接指導していただいた豊永高史先生(神戸大学病院 消化器内科准教授・光学医療診療部部長)からは世界一の内視鏡技術を間近で見せていただきましたし、井上晴洋先生(昭和大学 江東豊洲病院 消化器センター センター長、教授、外科系診療科長)からはPOEM(下記詳細)という新しく画期的な技術だけでなく柔軟な発想力と行動力を学ばせていただいたことが、今の自分に大きな影響を与えました。

田中先生が海外でご指導されたご経験もあると伺っています

はい、韓国やスペイン、アルメニアにおいて、ESD(Endoscopic Submucosal Dissection)*をはじめとする治療・手技について、現地の患者さんを対象にした治療のライブデモンストレーションや講演を行いました。

*編集部注:内視鏡的粘膜下層剥離術、特定の条件下における早期胃がんに対する治療法の一つ

非常に学習意欲、モチベーションの高い先生方たちが参加されますので、ライブで実際の手技を見てもらったりテクニックのコツを伝えたりすることで、それだけで短期間に上達する先生なんかもいました。帰国後しばらくしてライブで教えた先生から、「(田中先生の指導のおかげで)こんなことができたよ」というような連絡をもらった時は、行ってよかったなと感じましたね。

田中内科クリニックの内視鏡検査室 「患者さんと一心に向き合い、地域施設と共に最先端医療の提供に徹する」田中心和先生(田中内科クリニック 院長)

田中先生主導で、関西地域で初めてPOEMを導入されました

※POEM(Per Oral Endoscopic Myotomy)とは
食道の筋層切開術を体に傷をつけずに内視鏡だけで行う方法で、井上晴洋教授が世界に先駆けて開発した方法です。この治療法は我々が2008年9月に世界で初めて行って以来、国内外でその安全性、根治性、低侵襲性が認められ、現在では世界に広く普及しておりスタンダードな治療法です。
① 体表に傷がつかない
② 筋層を切る長さや方向を自由に調整できる(つまり個人個人に応じたオーダーメイド治療が可能)
③ 体への負担が少ない
④ あらゆるタイプのアカラシアや類似疾患に対応が可能
というメリットがあります。
(昭和大学 江東豊洲病院 消化器センター「食道アカラシアPOEM治療を受けられる患者さんへ」より一部抜粋)

当時、ESDの技術をある程度習得し、施設内でも多くの症例を任される立場にありましたが、自分自身と施設のさらなるレベルアップを図って何か新しい技術を取り入れたいと考えていました。井上先生が開発されたPOEMのことは知っていたのですが、関西地域ではどの施設も導入していない状況でした。

また、幸運なことに私の母校の同級生である塩飽洋生先生(福岡大学病院 消化器外科 准教授)がPOEMをすでに始めていたので、「POEMはどんな手技なのか」「神戸大学病院でも導入できそうか」といったことを相談させてもらうことができたことも大きな後押しとなりました。その中で導入できる見込みがあると感じて、当時の教授にお願いし、井上先生の下で半年ほど研修させていただいた後にこの新しい技術を導入することとなりました。神戸大学病院ではこれまで600例近くのPOEMを行い、昭和大学 江東豊洲病院に次ぐほどの実績を上げています。

新しい技術という点では、内視鏡検査をサポートするAIについてはどうお考えですか?

AIは恐らく内視鏡と親和性があるので、どういった形になるか分かりませんが内視鏡検査に組み込まれていくと考えています。病変の発見率の上昇が一番期待される所ではありますが、内視鏡検査の質の均てん化もAIによってもたらされる患者さんのメリットなのではないかと思います。技術的にはまだこれからかもしれませんが、病変の深達度の診断などもAIが補助してくれるといいなと思います。

また、実臨床で特にAIの導入が望まれているのは、カプセル内視鏡*の読影ではないでしょうか。私自身もやったことがありますが、カプセル内視鏡の読影をしている先生方は読影に本当に苦労されています。AIがサポートしてくれると非常に助かる分野だと思います。

*編集部注:カプセル内視鏡の検査では、カプセルに内蔵したカメラで撮影された5~6万枚の検査画像を医師が1枚ずつチェックする必要がある。

人口当たりの大腸内視鏡検査数が高くない兵庫県、粘り強く啓蒙を続ける

今後の展望について教えてください

今でも毎週木曜日は神戸大学病院や他の施設で内視鏡治療を行っています。また大学の先生方とは臨床研究を一緒に行ったりもしています。今後もアカデミアに長くいた経験を生かして、新たな知見を発信できるようなアクティビティの高いクリニックにしたいと思っています。

また、兵庫県における人口あたりの大腸内視鏡検査数は、全国の中でも決して多くありません。むしろちょっと少ないぐらいです。ですから、患者さんへの「内視鏡検査を受けましょう」という啓蒙はとても大事だと思っています。

もちろん、今まで受けた人に「定期的に受けましょう」と言うことも大事なのですが、一番大事なのは今まで受けたことない人にいかに検査を受けて頂くかだと考えています。私自身としては、消化器内科以外で来院された患者さんのほとんど全員に、「内視鏡検査、上下やりましたか」と聞いています。やっていなかったら「やってくださいよ」と言うのですが、もちろん嫌な顔をされる患者さんもいらっしゃいます。しかし、患者さんのことを考えると絶対に検査を受けた方が良いので、めげずに言い続けます。

そして将来的には、「神戸市内で内視鏡検査を受けるなら、田中内科クリニックに行こう」と思われるようなクリニックにしていきたいと思っています。