Article内視鏡医「地方だからこそ患者様に還元すべき”世界スタンダードな医療”」大村仁志先生2022/08/31
目次
今回は、2021年10月に「富山駅前おおむら内科・内視鏡クリニック」を開業された大村仁志先生に、開業に向けた想いや富山県内の現状、今後の展望などについておうかがいしました。大村先生は、消化器内科医として、大学病院や地域の中核病院での勤務等を経て、ご自身の出身地でもある富山県内で、内視鏡検査および治療を専門的に行うクリニックを開業されました。
内視鏡検査に「新しい価値」を付加したクリニックを開業
クリニックを開業された背景をお聞かせください
私は、開業歯科医である母の影響もあり、もともと自分のクリニックで個性のある医療を提供したいという想いがありました。消化器内科医になってからの病院勤務では、早期がんの患者様に対するESD治療などに大きなやりがいを感じる一方で、進行がんで余命の短い患者様に対すて、医師としての無力感を感じることもありました。
「もっと気軽に内視鏡検査を受けられる施設が地元富山にもあれば、がんの早期発見・早期治療ができ、進行がんになる患者様を少しでも減らせるのに」という想いが強くなり、数年前から地元である富山県内での開業を目指していました。
どのようなクリニックにしようとお考えだったのでしょうか
当クリニックを開業するにあたり、『快適・便利・安心』という新しい価値を、内視鏡診療に付加することを目指しました。
内視鏡検査は、「つらい検査」という先入観を持たれることも少なくありません。私は、「つらくない検査」を実現するためには、希望される患者様に鎮静剤をご提供することが必須と考えています。しかし、特に当地域のようないわゆる地方では、自動車を運転しながらで通院することが前提となっている医療機関が多く、鎮静剤を使用するための障壁となっているという現状があります。その点、当クリニックは富山駅前に立地しており、電車やバスなど公共交通機関での通院が容易であるため、鎮静剤を使用した内視鏡検査を行いやすいという特徴があります。
そのほか、前処置のための個室や専用トイレを用意したり、WEB予約システムを導入したりするなど、患者様が安心して検査を受けて快適に過ごせる診療環境を整えることに注力しています。
患者様のニーズに応えるためにWebで検査の情報を発信
病院とは違う層の患者様と接する中で感じたことはございましたでしょうか
当地域は、内視鏡検査を専門に行うクリニックが多くはありません。開業するにあたり、「鎮静剤下で眠りながら検査を受けたい」あるいは「下剤は院内で服用して検査を受けたい」など、施設の数やアクセスが原因で対応しきれていなかったニーズがあると感じています。
また、内視鏡検査の必要性を認識していながらも、苦痛や恐怖、またそのような先入観のために先延ばしにしている患者様が非常に多いということも、開業後はより強く実感しています。しかし、裏を返せば「快適に検査を受けられること」をわかりやすく伝えることで、検査への先入観を払拭して、「検査を受けよう」と思っていただける可能性があるということになります。
たとえば、当クリニックのWebサイトには、「院内や診療の紹介動画」や「漫画でわかる大腸カメラ」というコンテンツも掲載しています。これは、初めて大腸内視鏡検査を受ける方にも検査は怖くないことを分かっていただきたいと考え、掲載しているものです。また、漫画の中には「検査のタイミング」「検査の流れ」「大腸カメラ検査でわかる疾患」などへのリンクもあります。地域のみなさんに、ご自身の体と向き合っていただき、大腸内視鏡検査をもっと身近に感じていただきたいという思いから、こうしたコンテンツを掲載しています。
以前は「つらい検査」のイメージから内視鏡検査を避けていたような方や過去の検査でつらい思いをした方が、Webで苦痛の少ない検査方法を検索して当院に来院いただくというパターンも多いです。
患者様に還元すべき「世界のスタンダードな医療」
クリニックや地域貢献における今後の展望について教えてください
現在、当院の医師は私一人です。北陸地方はもともと、内視鏡を専門にする医師が多くはありません。まだ開業してから数か月ですが、いずれもっと患者様が増えたら、医師も増やしていく必要があります。
富山県はまだまだ、内視鏡の分野でも先進的な取り組みが遅れがちな地域です。この地域に住む人たちの胃がんや大腸がん、消化管における様々な病気の発見や治療は、誰かが何とかしなくてはなりません。似たような地域は、富山以外にもあると思います。
そのような地域の人たちに対し、内視鏡AIを始めとする世界のスタンダード、第一線の医療を還元していけるよう、クリニックも成長していく必要があります。内視鏡AIの普及は、病変のディテクション・質的診断の両面から、時間の問題だろうと考えています。内視鏡検査を行う医師のコンディションや技量・経験に関わらず、一定の水準で検査精度をサポートしてくれるという点でメリットがあまりに大きいテクノロジーです。
また、内視鏡AIの技術が進歩および普及すれば、上記で述べたような人手不足による負荷を軽減し、今後地元に貢献したい想いを持つ医師の開業やそれを志望する医学生が増えるかもしれません。そうなれば、地方の患者様もクリニックへのアクセスが従来よりも容易になり、医師の想いと患者様の健康の両方が実現できるようになると考えています。
消化器内視鏡の世界は、NBI拡大内視鏡や超拡大内視鏡に加え、内視鏡AIという新たなブレイクスルーを迎えようとしており、学問の一線からは少し離れた場所から、いつもワクワクしながらみています。テクノロジーの力を借りながら、自分の診察力をAIと競い合いながらアップデートしていく。そんな世界が来ることを楽しみにしています。
一方で、検査を受ける患者様の苦痛を和らげ、検査までのアクセスを良好にし、世間に
啓蒙していく、という地道な草の根活動については、個々の医療施設の努力の余地がまだ
まだ大きいです。私自身だけではなく、当クリニックのスタッフも一緒になって日々工夫を重ねていくことで、1年後、2年後に、今よりもさらに良い医療を提供できるようになりたいと、強く願っています。