Article内視鏡医「心身共に苦痛のない内視鏡検査、病院との連携、IT活用。患者さんへ質の高い医療を提供するために」斉藤庸博先生(千葉四街道胃腸肛門内視鏡クリニック 院長)2022/08/31

「心身共に苦痛のない内視鏡検査、病院との連携、IT活用。患者さんへ質の高い医療を提供するために」斉藤庸博先生(千葉四街道胃腸肛門内視鏡クリニック 院長)

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今回は、2021年4月に「千葉四街道胃腸肛門内視鏡クリニック」を開業された斉藤庸博先生に、内視鏡検査の現状と課題、今後の展望についてうかがいしました。
斉藤先生は、消化器外科医として大学病院や地域の中核病院での勤務を経て、出身地である千葉県で胃腸科・肛門科の専門的な診療と内視鏡診療を行うクリニックを開業されました。

当地域で求められる医療の姿を追求した結果の開業

クリニックの名称でもある「肛門」や「内視鏡」に秘めた想いをお聞かせください

当院は、私の父が内科クリニックとして開業していました。一度は閉院しましたが、周りのみなさまからの後押しもあり、2021年4月に私が引き継ぐ形で再びの開業となりました。
私はもともと消化器外科を専門としており、胃腸疾患から肝胆膵、肛門疾患まで幅広く「外科医」として携わってきました。当院を開業するにあたり、父が築いてきた内科診療だけではなく、自分の専門性も加味した名称にしたいと考え、「肛門」や「内視鏡」などの言葉を使うことにしました。
中でも「肛門」という言葉は、私にとって外せない言葉でした。なぜなら肛門科としての診療を行う医療機関は、意外と少ないからです。中には「肛門はやっていません」と最初からおっしゃる施設もあります。外科があるからといって必ずしも肛門の診療を行っているとは限りませんので、「当院は専門的に肛門疾患も診ています」ということを、近隣の方にも知ってほしいと考えています。
「内視鏡」も同様です。内科クリニックだったころは内視鏡を専門的に行ってはいませんでしたが、現代社会で患者さんに求められる医療の姿の1つとして、内視鏡は外せないと考えました。

クリニックの名称には地域名もありますが、地域医療への取り組みはいかがでしょうか

開業間もないころ、近隣の病院の先生やがんセンターの医療連携のご担当者にも来ていただきましたし、私自身も現在、近隣の病院での非常勤勤務を続けています。私自身が千葉県の出身であり、昔からの知人や友人が近隣の病院に勤務していることもあります。自分の出身大学は千葉県外でしたが、この地域のみなさまにも、温かく受け入れていただいていると感じています。
たとえば、がんセンターでESD等を受けた患者さんの経過観察を当院で行うこともありますし、逆に当院で高度な治療が難しいようなケースは近隣の病院をご紹介する形です。こうした症例は徐々に増えていますし、今後も取り組んでいくべきことだと考えています。

クリニックにおける、内視鏡検査の実際についてお聞かせください

当クリニックで目指すのは、「苦痛の無い内視鏡」です。
自分自身も内視鏡検査を受けたことがありますので、どうしたら苦しくない検査ができるのか、自分自身の経験からも常に考えるようにしています。具体的には、内視鏡検査に対する鎮静剤の使用、事前にしっかりと説明して患者さんの気持ちを整えていただくこと、クリニックの雰囲気やスタッフの接遇など、さまざまな要素があります。これらの「良いところ」を取り入れて内視鏡検査による苦痛を軽減したい、これは私の信念でもあります。
当院ではまた、受診当日の胃カメラにも対応しています。患者さんは辛い、痛いなどの症状があって受診されることもありますから、なるべく早くその原因を追究し、治療を始めたい。そのために、初診当日の上部内視鏡検査に対応しています。
必要に応じて生検も行いますが、状態の良し悪しに関わらず、検査当日にある程度の結果についてはお伝えします。やはり内視鏡検査を受けた患者さんはできるだけ早く結果を知りたいと思いますし、待つ時間を無駄に長くしたくないという思いもあります。明らかに悪性度が高いと考えられる場合は、検査当日に近隣の病院をご紹介することもあります。
大腸カメラの場合、ポリープを見つけたらその場で切除します。2回にわたって下剤を飲んだり、同じような検査を何度も受けたりすることが、患者さんにとって苦痛につながるからです。
こうした診療体制の結果か、上部・下部の内視鏡検査を受ける患者さんは徐々に増えています。クリニックの名称に「肛門」とあることもその理由かもしれませんが、血便が出たからと受診された患者さんが、それをきっかけに下部内視鏡検査を受けていただくこともあります。

「どこで内視鏡検査をしても同じ結果が出る」ことを目指すべき

内視鏡検査の実態についてお聞かせください

内視鏡検査を受けられる医療機関は、どんどん増えていると思います。しかし、大学病院などの大きな病院と、当院のようなクリニックでは、内視鏡検査に対する患者さんの目的が違ってきます。
大学病院などの大きな病院では、「がんを治療する」というように具体的な目的があって受診されるわけですから、内視鏡検査は治療の一環でもあります。
一方のクリニックでは、疾患の早期発見が重要になってきます。いかに早く疾患を見つけ、適切な治療を開始できるか。「疾患を拾い上げる」ことが重要です。消化管内部の異変ががんなのかがんじゃないのか、その草分け役が開業医です。クリニックでの検査は、大学病院の勤務時とは違う緊張感があると思っています。

内視鏡検査に対する患者さんのニーズとはどのようなものでしょうか

いくつかあると思います。まずは、「悪いところは早く治療したい」ことです。前述の通り、当院では初めての内視鏡検査でも、大腸ポリープがあればその場で切除しますし、生検結果が出る前でも悪性度が高いと判断した場合には手術など高度な治療が行える適切な医療機関をご紹介します。これにより、早期に発見できたらすぐに治療する、発見された時に進行しているならなるべく早く高度な治療に移行していただくことができます。
また、患者さんの視点でもう一つ大事なことは「どこで内視鏡検査を受けても同じ結果が出ること」ではないでしょうか。日本は同じ疾患・同じ手技なら同じ金額を支払うわけですから、患者さんとしてはどこに行っても同じ結果を得たいと考えるでしょう。そして医師としても、同じ症例なら再現性を担保した結果を返さないといけない。検査を行う医師によって結果が違うと、その後の治療方針にも大きく関わってきます。

AIによって検査に客観性を持たせるため、学会を巻き込んだ取り組みに期待

斉藤先生が考える内視鏡検査の未来像についてお聞かせください

この地域で進行がんになる人を少しでも減らす、ということでしょうか。父が築いてきた内科診療の世界と、自分で作り上げていく内視鏡をはじめとした胃腸科・肛門科診療の世界、いずれも目指すべき姿は同じだと思います。
それから、前述のような「どこで内視鏡検査を受けても同じ結果が出る」世界の実現です。上部消化管、下部消化管、それぞれ診るポイントは少しずつ違います。検査中で迷う場面は、上部消化管が圧倒的に多いと思います。しかし、患者さんがリラックスして検査を受けられれば、カメラを挿入する距離や時間も下部内視鏡より短いですし、胃・十二指腸まで達するための手技数もそれほど多くはありません。一方の下部消化管は、基本的にはポリープなどをいかに上手に発見し、切除できるかです。深部の盲腸まで達するまでにどの場面でカメラをどう動かすかなど、手数がとても多く、検査の進行は千差万別です。
こうした「手技を行う医師の差」をどうすれば埋めていけるのか、これからの私たち内視鏡医にかかっているのだと思います。

その未来の実現に向けて、内視鏡検査はどのように発展していくと思われますか

数年前に中里雄一先生のご紹介を通じて、湘南健診クリニック ココットさくら館にて内視鏡AIについて知りました。初めて説明を聞いた時は、これなしで内視鏡やるのはありえない時代がくるのかなという期待感とともに、AIが医療の世界にくるのはまだ先だろうという印象がありましたが、実際に体験させてもらい、意外と早くAIの世界が来たと感じました。

今後は手技を行う医師の差を埋めるべく、ITを積極的に取り入れる時代がくると考えています。
たとえば大病院であれば、検査を行う医師のほかにも、同僚や先輩など多くの医師がダブルチェックを行うことができますが、クリニックでは基本的に一人で行います。一人で内視鏡検査を行っていると、思い込みが生じる可能性もありますが、常に客観的な視点があればそのリスクを減らせる可能性があります。
AIはその点、自分の判断に悩みが生じたときに、こういう考え方もあるというヒントをくれるのではないかと考えています。最終的には自分で判断しますが、AIは同僚が自分の後ろに一人ついているような状況を作りだしてくれるのではないでしょうか。いずれは医師個人の意向だけではなく、学会などで推奨され、AI無しでは内視鏡は成り立たない世界が来てほしいと、期待しています。