Article観察・診断【動画あり】「胃がんと内視鏡診断の基礎知識」特別講演:新たなステージに向かう内視鏡スクリーニング Part 1(自治医科大学・大澤博之先生)2022/08/31

【動画あり】「胃がんと内視鏡診断の基礎知識」特別講演:新たなステージに向かう内視鏡スクリーニング Part 1(自治医科大学・大澤博之先生)

目次

大澤博之先生(自治医科大学 内科学講座消化器内科学部門 准教授)に、内視鏡検査におけるがんの見落としとそれを防ぐための色調を考慮した診断法について「新たなステージに向かう内視鏡スクリーニング~LCIの基礎から応用まで~」という題目にて、株式会社AIメディカルサービスの社内にて講演会を開催していただきました。本稿では社内に留まらず、内視鏡医の先生方にも大澤先生の講演会の内容をお伝えしたく、4パートに分けてご紹介いたします。

Part1の本記事は、胃がんと内視鏡診断の基礎知識についての解説です。前半では、胃の各部位の名称や胃がんの分類について、後半では胃がん診断の課題やその解決策となる画像強調内視鏡診断について解説していただきました。

胃がんに関する基礎知識

胃各部の名称

ー胃各部の名称 ー胃各部の名称

食道(esophagus)と胃の境界線を噴門(cardia)、胃と十二指腸(duodenum)との境界線を幽門(pylorus)と言います。胃の中は上から胃底部(fundus)、胃体部(body)、幽門前庭部(antrum)と分かれており、胃の大きく外側に膨らんで彎曲した部分を大彎(greater curvature)、内側(lesser curvature)の短い部分を小彎と呼びます。

胃がんの肉眼形態分類

胃がんの肉眼形態分類 出典:胃取扱い規約 第14版(日本胃癌学会) 胃がんの肉眼形態分類

胃がんの肉眼型分類は、0型から4型までの5タイプあり、そのうち0型:表在型に分類されるものを早期胃がんと呼びます。早期胃がんは、0-Ⅰ型(隆起型)、0-Ⅱ型(表面型)、0‐Ⅲ型(陥凹型)に分かれ、更に0-Ⅱ型は若干隆起している0-Ⅱa(表面隆起型)、ほとんどその平坦な0-Ⅱb(表面平坦型)、少し陥凹してる0-Ⅱc(表面陥凹型)のいずれかに分類されます。

胃がんの組織分類

組織分類において、胃がんは大きく分類して分化型(Intestinal type)、未分化型(diffuse type)の2種類があります。分化型には、乳頭状に隆起して腺管を形成するパップ(pap)とも呼ばれる乳頭状腺がん(Papillary adenocarcinoma Tubular)や、丸く腺を形成している腺管がん(Tubular)があり、また、未分化型には低分化腺がん(Poorly differentiated adenocarcinoma)や印環細胞がん(Signet ring cell carcinoma)があります。

胃がん診断は非常に難しい

なぜ、胃がん診断は難しいのか?

胃がん診断が難しい理由は、「胃の背景粘膜に複雑な炎症性変化があるから」です。具体的には、凹凸不整がある胃炎、腸上皮化生等があります。このような炎症性変化は、人間の視覚情報のみで胃がんと区別することが非常に難しいです。一般的に白色光画像の胃がんの見逃し率は20~40%と言われており、熟練の内視鏡医でも炎症と胃がんを鑑別することが難しいことが分かります。

何を改善すれば問題は解決できるのか?

炎症と胃がんを鑑別する明確な分類カテゴリ―が存在すれば早期胃がんの見逃しを回避することができます。例えば、炎症部分は赤く染まり、胃がんの部分は青く染まるなど、情報をわかりやすく分類・整理することができれば、胃がん診断はしやすくなります。

画像強調内視鏡診断は炎症と胃がんを色調コントラストを用いて明確に分類可能

NBIから始まった画像強調内視鏡診断の歴史

NBIから始まった画像強調内視鏡診断の歴史
内視鏡の歴史を振り返ると、画像強調内視鏡診断は2004年から始まっています。一番最初に確立したのがNarrow band imaging(NBI)と呼ばれる診断方法です。その後、Flexible special Imaging Color Enhancement(FICE)、i-scan、Blue LASER imaging(BLI)が生まれ、最終的に、Linked Color imaging(LCI)が登場しました。新しい診断方法が確立されていくにあたり早期胃がんを発見する症例数が増加し、画像強調診断をスクリーニングで用いるということが非常に重要であるということが分かってきました。

NBIから始まった画像強調内視鏡診断の歴史

画像強調内視鏡診断の使われ方は、大きく分けて「スクリーニング」と拡大画像による「精査」の2つがあります。NBIは拡大画像に強みを持ち、FICEはスクリーニングに強く、i-scanはスクリーニングと拡大両方に強みを持っています。LCIはどちらかと言えば、スクリーニングに強いという特徴があります。

経鼻内視鏡の普及と課題

日本の消化器内科では経鼻内視鏡による検査が普及していますが、特徴としては経口内視鏡に比べ5.9mmとスコープが非常にスリムであることが挙げられます。これにより、内視鏡検査中に患者さんとリアルタイムで会話ができたり、舌根部に振れないことから嘔吐反射が非常に少なかったり等と、心身両面で患者さんにメリットがあります。また、曲率半径が小さいため小回りが利き、胃の各部位を観察する際に正面視しやすいといった特徴もあります。しかし、経鼻内視鏡による観察で見逃される胃がんがあると論文で報告されており1)、それにより導入を躊躇する施設もありました。

1)Ultrathin endoscopy versus high-resolution endoscopy for diagnosing superficial gastric neoplasia/Hirobumi Toyoizumi/Gastrointestinal Endoscopy/Volume 70, Issue 2, August 2009, Pages 240-245

しかし、私自身は経鼻内視鏡で観察した際、FICEを用いてがんを見つけることができており、必ずしも経鼻内視鏡が経口内視鏡よりも劣っているとは言えないのではないか、と考えるようになりました。解像度においては経鼻内視鏡が劣っていますが、FICEを使い色調コントラストを高めることの方ががんの診断に役立つのではないかと考えられます。そして、2015年に私達が発表した論文では、診断が非常に1番難しいと言われている、見逃された0-Ⅱb型の早期胃癌の診断におけるLCIの有用性を報告しており2)、これから色調診断の時代が到来する予感を感じました。

2)Linked color imaging technology facilitates early detection of flat gastric cancers./Fukuda H/Clinical Journal of Gastroenterology/11 Nov 2015, 8(6):385-389

大澤博之先生による解説動画

本稿でまとめている講演内容は、下記URLより動画で閲覧いただけます。内視鏡医の先生方のご参考になれば幸いです。 https://endo.ai-ms.com/media/videos/3393