Article観察・診断見逃がしやすいピロリ除菌後胃癌、診断のコツとは?2023/08/28
目次
様々な胃癌がある中で早期発見が難しい胃癌の一つと言われているピロリ菌除菌後胃癌。ピロリ菌の感染状況は現感染、未感染、既感染(除菌後)の3つに分類され、所見もそれぞれ異なります。
「当院の胃癌ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)数において、以前と比較して既感染の割合が最も多くなっています」
そのように話すのは土肥統先生(京都府立医科大学 大学院医学研究科 消化器内科学 講師)。土肥先生が2023年3月開催の”萎縮とピロリ感染の拾い上げと鑑別診断ウェビナー”で提示した以下スライドでは、ピロリ菌の除菌療法が保険適用された2013年以降、特に既感染が占める割合が大きくなっていることがわかります。
既感染の割合が増える一方で、内視鏡検査において除菌後胃癌を見つけることは容易ではないことも土肥先生は強調します。
今回は土肥先生がセミナーで解説した、見逃がしやすいピロリ除菌後胃癌の診断のコツについて紹介します。
除菌後胃癌を理解する
除菌後胃癌の特徴とは?
土肥先生は除菌後胃癌の特徴として以下3つの特徴を挙げています。
- 通常内視鏡(白色光):(やや発赤調)平坦、陥凹病変
- 拡大内視鏡:胃炎に似た構造
- 病理:表層に癌と非癌が混在
「これらの特徴から、白色光のみでの発見はなかなか難しいことがわかると思います」と土肥先生は話します。
見逃しやすい除菌後胃癌、発生部位は?
土肥先生は見逃しやすい除菌後胃癌について以下の3か所で発生しやすいとし、それぞれ解説しました。
- 前庭部の腸上皮化生に紛れる癌
- 前庭部の地図状発赤に紛れる癌
- 体部の地図状発赤辺縁(中間体)に紛れる癌
前庭部の腸上皮化生に紛れる癌
「まず、前庭部の腸上皮化生に紛れている分化型癌です。よく見ると周囲の腸上皮化生と比べて病変の色調がやや異なります」
前庭部の地図状発赤に紛れる癌
「続いて前庭部の地図状発赤に類似している癌です。白色光では少しわかりづらいですが、病変部分は色調が異なり、やや陥凹しています」
(編集部追記:著作権の関係で記事中での画像紹介ができませんが、本ウェビナーのオンデマンド配信にてご確認いただけます)
体部の地図状発赤周縁に紛れる癌
「続いて体部の地図状発赤周縁、いわゆる中間帯(後ほど解説)に紛れる癌です。色調差・肉眼変化はわずかでわかりにくい癌だと思います。
画面右側は萎縮して赤くなっており、左側の萎縮していない・白くもこもこした部分は中間帯となっています」
土肥先生は上記のような症例の診断は容易ではないとしつつも、除菌後胃癌拾い上げのポイントとして「見逃しやすい癌がどこで発生するのかを知っていることが重要」だと話します。
除菌後胃癌の観察テクニック
続いて土肥先生は除菌後胃癌を拾い上げるための5つの観察テクニックを、”実際に見逃された”症例画像を用いて解説しました。
※それぞれ画面左側が”実際に見逃された”症例画像です
しっかり洗浄する
「こちらは前庭部の大彎に存在する発赤調・隆起性の除菌後胃癌です。左側、1年前の検査では前処置があまりよろしくなく、洗浄が不十分でした。そのような場合しっかり観察したとしても見逃すことがある、ということがわかる症例です」
レンズの曇りをクリアに
「こちらは前庭部後壁にある淡い発赤調の平坦型の病変です。左側の1年前の検査では、病変自体は撮影できているものの、レンズが曇っており病変と認識されていませんでした。
視界の悪い状態で観察することは良くないということがわかるかと思います」
観察不良部位を認識する
「見逃しやすい部位を知っておくことも重要です。この患者さんは前庭部が少し小さく、いわゆる角裏の部分が非常に観察しづらいケースでした。
1年前の検査では前庭部を見上げて観察した画像がありませんでした。左側の画像の右下部分にはびらんがありますが見逃しています。前庭部の角裏の部分を観察しようとしていたら見逃してなかったかもしれません」
「噴門部小彎も観察不良部位の一つです。しっかり送気して見上げて近接すると、右の画像の様に陥凹性病変を確認することができます。
しかし、1年前の検査では同じように観察した画像はありませんでした。見逃しやすい部位をしっかり認識して観察することが重要です」
送気量を調節する
「送気量も重要です。右側の病変は体中部大彎のひだとひだの間に存在する褪色調の病変です。
この患者さんは2か月前に他の病変に対してESDを行っており、左の画像はその際に撮影されたものです。少々送気が不十分で、ひだとひだの間が十分に開いていませんが、矢印で囲われた位置に病変があります。
体部の大彎であればひだとひだの間に病変が隠れることがあり、送気量が少ないと見逃してしまう可能性があることがわかります」
「先ほどの症例とは逆に、送気量が多いとわかりづらくなるケースもあります。左側の画像、体下部の後壁に少し発赤と褪色が混じっているような病変がありますが、少し不明瞭です。
このような場合は脱気すると陥凹がしっかりと現れ、病変であると認識できるようになります。大彎はしっかり送気する必要がありますが、大彎でない部位は空気を少し減らすということも1つの工夫だと思います」
画像強調を活用する
内視鏡システムに搭載された画像強調を有効活用することも重要です。土肥先生はオリンパス社の内視鏡システムの画像強調機能であるNBI(Narrow Band Imaging)、富士フイルム社の内視鏡に搭載されているBLI(Blue Laser Imaging)-brightの活用が、胃癌の拾い上げに有用であるという報告を紹介。
「WLI(White Light Imaging)と比較して、NBIはPPV(Positive Predictive Value)において、BLI-brightは発見率とPPVが高かったと報告されています」
土肥先生は腸上皮化生や地図状発赤に紛れるわかりにくい除菌後胃癌については、画像強調を積極的に使って活用することを推奨しています。
除菌後胃癌の診断、胃炎所見に注目
ピロリ菌の感染状況は現感染、未感染、既感染の3つに分類されます。感染状況ごとによく見られる胃炎所見が異なるため、代表的な所見を把握・理解しておくことが重要であると、前回のセミナーで若槻先生(独立行政法人国立病院機構 岡山医療センター消化器内科)が述べています。
除菌後胃癌は分化型癌が多いため、土肥先生は除菌後胃癌の診断に必要な知識として、まず押さえておくべき胃炎所見を3つに絞って提示しました。
- 萎縮
- 腸上皮化生
- 地図状発赤
「除菌後胃癌の診断にとって重要な胃炎所見はこの3つです。萎縮と腸上皮化生は既感染のみならず現感染にも見られる所見ですが、地図状発赤は既感染に特異的な所見です」
土肥先生は上記の所見について詳しく説明しました。
萎縮
前回のセミナーで若槻先生が萎縮の基礎について解説しましたが、萎縮とそうでない領域の境界を認識するためにはどのようにすればよいのでしょうか。土肥先生は「きれいにボーダーラインを引けるわけではない」としつつも、おおまかに以下の3つの領域に分けられると説明します。
- 萎縮している領域
- 萎縮していない領域
- その間(中間帯)
「こちらの症例では、右側の体部小彎のあたりがまだらに褪色調となっています。オリンパス社内視鏡の画像強調・TXI(Texture and Color Enhancement Imaging、赤・白色を強調)を使うと、萎縮している部分がより明瞭になっていきます」
「この症例では以下のように境界線を引けるかと思います。右側の明らかに萎縮している領域、左側の明らかに萎縮していない領域、その中間といった具合です」
「中間帯についてもう少し詳しく解説します。中間帯は萎縮と非萎縮が混ざった領域です。除菌後においては、中間帯に見られる”もこもこした残存胃底腺”に注目することで、このように境界がわかってきます」
腸上皮化生
「前庭部に発生する白っぽい地図状の扁平隆起が、典型的な腸上皮化生の所見です。NBIを使うと白っぽい部分が強調されるのでよりわかりやすくなるかと思います。除菌後胃癌ハイリスクな初見ですので覚えておく必要があります」
地図状発赤
「地図状発赤も除菌後胃癌のハイリスクな初見です。通常は萎縮している領域は白っぽくなります。こちらの症例では除菌によって萎縮領域が白くなっており、相対的に赤くなっている部分が地図状発赤です。LCIで観察することで色調差が明瞭になっています」
ウェビナー動画を閲覧、内視鏡動画を用いた症例検討も
本記事で解説した観察・診断のポイントについて、土肥先生・若槻先生が解説する動画を閲覧できます。上記に加えて収録された症例検討(内視鏡画像・動画を利用)をご覧になることで、より理解が深まる内容になっています。
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