Article観察・診断萎縮性胃炎とピロリ菌感染の診断、内視鏡所見も踏まえて解説2023/07/26
目次
癌抑制の効果があるとして知られるピロリ菌(H. pylori)の除菌療法。武進先生ら胃癌に対する除菌療法の予防効果としては、以下の3つの独立因子があるとされています。
- 初回治療の成功
- 若年齢
- ベースラインの胃粘膜萎縮度
「このうち胃粘膜萎縮度については、萎縮度ごとに将来の胃癌の発生率が異なるため、その程度を判断できることが重要です」
そう話すのは若槻俊之 先生(独立行政法人国立病院機構 岡山医療センター消化器内科)。2023年2月に開催されたセミナー、”動画症例で学ぶ!萎縮+ピロリ感染の診断<基礎編>”での発言です。
この記事では、胃粘膜萎縮度およびピロリ菌感染状態の診断の基礎について、若槻先生が解説した内容をまとめます。
萎縮性胃炎、内視鏡診断の基礎
萎縮性胃炎の判断を誤るケースはどのようなものでしょうか。若槻先生は萎縮性胃炎でない症例を萎縮性胃炎と誤認された症例を例に挙げて解説しました。
「この症例では小彎にはRACがあり胃角にはpit様構造を認めます。レポートには萎縮性胃炎(Open Type)と書かれてありましたが、萎縮がない所見に見えます。
右下の画像を見ると、小彎に血管透見(萎縮の内視鏡所見)があるように見えてしまい、萎縮性胃炎だと誤認してしまったようです」
「書籍”胃と腸(医学書院)”などでは適切な量の送気を行う旨が記されています。この症例では送気量が必要以上に多く、胃がパンパンになってしまっていることが誤認の要因だと思われます」
若槻先生は萎縮の評価にNBI(Narrow Band Imaging)が有用であるという報告があることにも触れつつ、今回は通常光による観察に焦点を当てて解説しました。
木村・竹本分類でみる萎縮の評価
萎縮の評価については、一般的に木村・竹本分類を用います。若槻先生は萎縮有無の判断についておおまかに以下の形でまとめつつ、木村・竹本分類について解説しました。
- 萎縮なし:襞(の存在)、RAC
- 萎縮あり:襞の消失、血管透見、褪色粗慥粘膜
木村・竹本分類では、萎縮境界が胃体部小彎側で噴門を越えないClosed type(C-1~3)、それを越え大彎側に進展するOpen type(O-1~3)の6種類に分類されます。
若槻先生は、現在は改訂版である通称”modified木村・竹本分類”(境界線の範囲を明確に、新たにC-0等を追加、各typeをアラビア数字で表記している)が主流であることに触れた上で、それぞれのtypeの特徴を以下の通り解説しました。
C-0 ピロリ菌未感染相当の萎縮がない状態 C-1(Ⅰ) 萎縮境界が胃角小彎を越えず、前庭部にとどまっている状態 C-2(Ⅱ) 萎縮境界が胃角を越え、体部小彎の中央よりも肛門側まで拡がっている状態 C-3(Ⅲ) 萎縮境界が噴門に及んでいない状態 O-1(Ⅰ) 噴門周囲にとどまり、大彎の襞が保たれている状態 O-2(Ⅱ) O-1とO-3の間 O-3(Ⅲ) 全体的に大彎の襞が消失している状態
萎縮の正確な判断、必要性は?
そもそも萎縮を正確に判断する必要はあるのか、という点について若槻先生は以下の様に補足します。
「ピロリ菌除菌による胃癌抑制効果はこれまで数多く報告されています。
そのうちの一つである武先生らの論文では、胃癌に対する除菌療法の予防効果の独立した因子として”ベースラインの胃粘膜萎縮度”が挙げられています。つまり萎縮のない胃粘膜からは、除菌後も胃癌が発生する可能性は低いということです」
更に若槻先生は七條智聖先生らの報告において、萎縮度の違いによって胃癌の累積発生率(5年、10年)がtypeごとに異なることを指摘している点についても紹介。これらの報告から「萎縮度をある程度判断することが大事」であると述べ、また萎縮度によって想定される胃癌が異なることについても触れました。
感染状況別、ピロリ菌の内視鏡所見
ピロリ菌の感染状況の評価には胃炎の京都分類を用いることが一般的です。ピロリ菌感染は以下3つの状況に分けられますが、若槻先生は感染状況別の代表的な所見を京都胃炎分類から抜粋して解説しました。
- 現感染
- 既感染
- 未感染
現感染
ピロリ菌現感染における代表的な内視鏡所見は以下の通りです。
- びまん性発赤
- 皺襞腫大・白濁粘液
- 鳥肌
「右の図の様に明らかに炎症が起きている場合や白濁粘液がある状態が現感染の代表的な所見です。場合によっては僅かな白濁粘液で現感染と判断しなければいけないケースもあります」
既感染
ピロリ菌既感染における代表的な内視鏡所見は以下の通りです。
- 斑状発赤
- 地図状発赤
「前庭部もしくは体部で見られる地図状発赤が代表的な所見です」
また若槻先生は、ピロリ菌除菌による特徴的な所見である”色調逆転現象”についても触れました。色調逆転現象では以下の現象が発生します。
- 体部の萎縮のない発赤調に見えていたところが褪色調に
- 萎縮のある腸上皮化生粘膜が相対的に発赤調に
未感染
ピロリ菌未感染における代表的な内視鏡所見は以下の通りです。
- RAC
- 胃底腺ポリープ
- 稜線状発赤
胃炎の京都分類のポイント
若槻先生は胃炎の京都分類を用いる際のポイントとして、上記の代表的な所見を暗記するのではなく、「(その所見になる背景を含めて)理解することが重要」だと述べています。
引用:gastropedia
萎縮やピロリ菌感染を判断するタイミングは?
若槻先生は萎縮やピロリ菌感染を判断するタイミングについて、間部克裕先生の考え方をベースにしたスライドを用いて解説しました。
ピロリ菌感染の判断、まずは食道胃接合部と体上部大彎で
ピロリ菌感染の判断においては、食道胃接合部(EGJ:esophagogastric junction)及び体上部大彎でのRACの有無が最初の分岐になります。
「RACがあれば未感染もしくは既感染と判断し、RACがなくびまん性発赤や白濁粘液が確認できる場合は現感染を疑います。
上記のタイミングでRACがある場合は胃角・大部小彎・前庭部に進み、未感染なのか既感染なのかをRACの有無及び既感染の所見の有無で判断できるかと思います」
萎縮は噴門部と体部見下ろしで判断
萎縮の判断については、噴門部でOpen / Closeを判断します。
「Open typeであれば体部の見下ろし観察にて、前後壁や大彎における萎縮の度合を見てO-1から3のいずれに該当するかを判断していきます」
ウェビナー動画を閲覧、内視鏡動画を用いた症例検討も
本記事で解説した観察・診断のポイントについて、若槻先生が解説する動画を閲覧できます。上記に加えて収録された症例検討(内視鏡画像・動画を利用)をご覧になることで、より理解が深まる内容になっています。
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