Article内視鏡AI胃がん診断・治療のすべての段階でAI利活用の可能性を探る!名古屋大学大学院・森健策教授による最新研究の紹介(第94回日本胃癌学会総会)2022/09/07

胃がん診断・治療のすべての段階でAI利活用の可能性を探る!名古屋大学大学院・森健策教授による最新研究の紹介(第94回日本胃癌学会総会)

目次

「胃がん診断・治療のすべての段階においてAIの利活用が可能だと考えます」。

第94回日本胃癌学会総会、”ワークショップ2 癌診断におけるAI活用はどこまで進んだか?”にて、名古屋大学大学院情報学研究科・教授の森健策先生はこう話しました。名古屋大学大学院情報学研究科では、2019年にサイバネットシステム社と共に大腸内視鏡検査におけるポリープの自動検出機能を有したAIを開発、リリースした実績があります。

森先生は国立情報学研究所 医療ビッグデータ研究センター・センター長を兼任されており、医療ビッグデータセンターでは医学系の様々な学会から医療画像を収集しクラウド基盤上でDBを構築、格納されたデータを使って研究者による解析が行われています。センター長として様々な研究を包括的に見ている森先生は「胃がん診断治療のすべての段階においてAIの利活用が可能」だといいます。

胃がん診断・治療のすべての段階でAI利活用の可能性を探る!名古屋大学大学院・森健策教授による最新研究の紹介(第94回日本胃癌学会総会) 森先生が紹介する胃がん診断治療におけるAIの利活用の可能性

本講演では、胃がん診断・治療における様々なAIの研究成果が紹介されました。

内視鏡検査時の見落としを軽減

東京大学の原田達也先生(先端科学技術研究センター 教授)と日本消化器内視鏡学会で行われたこちらの共同研究では、胃がんの検出を行い、さらに画像内のどのあたりが怪しいかをヒートマップで表示するAIが開発されました。システムの評価指標となるPR曲線のAUCスコアは78.4%(AUC99.8%)でした。
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胃内視鏡画像の位置分類

森先生の研究室では、撮影された胃内視鏡画像が胃のどの位置で撮影されたものか、穹窿部から幽門まで9つに分類するAIを開発しました。このAIはImageNetという内視鏡や胃とは関係ない画像で学習したモデルにて、転移学習という手法を用いて胃内視鏡画像を約57,000枚学習させており、8割程度の正解率で分類できることがわかってきています。

「左上から右下にかけての対角線上において、セルの色が黒くなるほど、より分類精度が良いという意味になります。幽門部あたりは少し精度が落ちますが、全体で見ると比較的高い精度で分類できているかと思います」(森先生)
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生検標本の解析

こちらは東京大学と日本病理学会による、生検標本をAIが解析し、どこに胃がんがあるか見つけ出す手法を開発する共同研究です。こちらもビッグデータ基盤を活用した研究で、提案手法が従来手法を上回る精度(正解率:0.983±0.0016、PR-AUC:0.988±0.0008)を達成しており、現在検証実験が行われています。「非常に精度が良いものができている」と森先生が期待を寄せている研究の一つです。

胃がん診断・治療のすべての段階でAI利活用の可能性を探る!名古屋大学大学院・森健策教授による最新研究の紹介(第94回日本胃癌学会総会)

手術中のナビゲーションや手術ロボットの実現へ。AIによる早期胃がん腹腔鏡手術支援

腹腔鏡手術の支援を目的とした内視鏡手術支援ロボットはすでに臨床導入の事例がありますが、AIによって総合的な腹腔鏡手術支援が可能だと森先生は話します。

「胃がん手術の場合、胃の周りの血管の処理が非常に重要です。そのためスライドの左側のAIでは解剖構造を解析して、血管の名前の解析を行います。さらに中央のAIのように、どのあたりを手術しているか解析し、これらを統合して総合的に手術支援情報を提示する、こういった研究も行われてきています」。

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「SegResNetという手法を用いて解剖構造を解析することで、非常に精度良く腹部の解析構造を提示することができます」。

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「胃の周辺に存在するような腫大リンパ節の検出もできます」。

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さらに、血管名の認識においてもAIを活用することができます。

「腹部のCT像から取り出された血管領域に対して、グラフ畳み込みニューラルネットワークという手法を用いて、血管の枝に対して名前を付与することが可能となってまいります」。

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「これを利用することで、血管の分岐レポートを術前に医師に提示する、あるいは術中に血管情報を腹腔鏡映像に合わせて提示する、というようなことが可能になるわけです」。

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また、先ほどの腫大リンパ節の抽出結果と合わせて、リンパ節位置番号を付与することもできます。下記の図はその結果ですが、正解率は76.9%です。青い矢印がAIによってリンパ節の位置が正しく認識されているもの、赤い矢印がリンパ節番号を間違えているものです。

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必要な解剖学的な構造情報を提示したり、手術におけるナビゲーションを行ったりすることで、がん手術の安全性の向上に役立ち、さらにこれらの研究が進むことで半自立型の手術ロボットの実現につながると森先生は話します。

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さらに、パラフィン包埋標本をマイクロCTで解析することにより、3次元的にがんがどこまで浸潤しているかを解析することができるようになってきています。

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AIが黒子として相棒になれるように

森先生がご紹介されたように、胃がんの診断・治療における様々な段階においてAIを利活用する研究が進んでいます。より精度の高い医療を提供するうえで、将来的にAIが重要な役割を担う可能性が示唆されました。

森先生は「将来的に、AIが黒子として相棒になれるように開発を続けていきたい」と話し、講演を結びました。