Article内視鏡医「内視鏡検査は医師にとっては100分の1でも患者さんにとっては1分の1 」土肥統先生(京都府立医科大学 消化器内科 講師)2022/09/25

「内視鏡検査は医師にとっては100分の1でも患者さんにとっては1分の1 」土肥統先生(京都府立医科大学 消化器内科 講師)

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gastroAI onlineでは、内視鏡医の先生方に役立つ情報を発信しています。今回は、内視鏡医のオリンピックとも呼ばれる「U45 Endolympic 2020 Kobe(日本消化器関連学会機構主催)」で銅メダルを獲得され、書籍「名医のいる病院2021」にも取り上げられた京都府立医科大学消化器内科にて講師を務められる土肥統先生に、内視鏡診察および内視鏡AIについてお話をうかがいました。

患者さんの負担軽減のためにはコツコツと内視鏡の経験と診断能力を磨くことが大切

ESDで患者さんの負担を軽くするポイントを教えてください

内視鏡治療における患者さんの負担を軽くするためには、施術時間を短く済ませることに限ります。これについては、経験と能力を育むしか道はありません。

そのためには、ESDで「治療」だけを意識すれば良いものではなく、「診断」も治療と同じくらい大切なものだと捉えるべきだと考えています。ESDの適応かどうかや切除する範囲はどれくらいかなど、正しく診断することが第一で、そこを見誤っては正しい治療はできません。正しい診断ができるかどうかは医師の技量次第です。そのために、経験を積み能力をコツコツと磨くことが重要だと考えています。

経験がものをいう胃がんの鑑別では内視鏡AIが活躍する可能性がある

内視鏡AIはどのような場面で役立つでしょうか。また、どのような医師に有用でしょうか。

内視鏡AIは、主に生検の場面で役立つと思います。内視鏡医が意外と悩むのが生検を実施するか否かの判断です。AIによって病変を見つける機能も素晴らしいですが、生検をするかどうかの判断のサポートを得られるのは助かります。

早期胃がんは見え方のバリエーションが豊富で、発見が難しいことが珍しくありません。経験豊富な医師でも見落としが起こりえる厄介なものなので、胃がん鑑別AIが疑わしい部分の注視を促してくれるのはありがたいと思います。胃がんの鑑別は、とにかく経験がものをいいます。内視鏡検査をはじめて間もない若手の医師にとっては難しくて当たり前なので、内視鏡AIの存在は上級医のサポートを常に得られるような安心感をもたらすかもしれません。

一方で若手の医師だけでなく、ベテランの医師にとっても内視鏡AIは役立つものだと思います。日々の診療の忙しさの中、ベストな状態で仕事を続けることは容易ではありません。朝は元気でも夕方には疲れていたり、場合によっては前日が当直でそのまま検査ということもあるはずです。そんな状況下でも内視鏡AIと意見が一致していれば、自分の判断力に自信が持てるのではないでしょうか。

また、内視鏡の検査を行う健診センターやクリニック・診療所に留まらず、ハイボリュームセンターでも内視鏡AIは役立つはずです。ハイボリュームセンターは検査数が多く、一つの検査を短時間でこなさなければならないため、検査の精度が下がったり、病変の見逃しにもつながったりする可能性が出てきます。内視鏡AIは疲れ知らずなので、そのようなケースでも力を発揮するはずです。また、内視鏡の専門医がいない診療所でも喜ばれるかもしれません。

経験がものをいう胃がんの鑑別では内視鏡AIが活躍する可能性がある

内視鏡検査は医師にとっては100分の1でも患者さんにとっては1分の1

臨床現場で役立つ内視鏡AIとは、どんなものでしょうか。

胃には胃がんだけではなく、色々な病気があります。特殊な病気の場合は経験がないと診断が難しいので、鑑別診断はとても助かると思います。検出についても見えていても気づかないことがあるので、それに気づかせてくれるのはありがたいです。

内視鏡検査で大事なのはがんの鑑別と検出ですが、もう一つ大事なのはがんの範囲診断です。ベテランでも範囲診断を間違えることが、年に1%程度起こりえます。しかし、例えば医師にとって診断の間違いは100分の1でも、患者さんにとっては1分の1です。がんの診断の間違いをゼロにすることは簡単ではないですが、万が一のことを考えても内視鏡AIによる診断サポートがあることに越したことはないです。

内視鏡AIに期待する「孤独にマルチタスクをこなす内視鏡医のサポート」

AIメディカルサービスに期待することを教えてください。

最近、内視鏡医の孤独感について思うことがあります。内視鏡検査では、看護師のサポートはありますが、病変を発見して、診断するのは医師1人で行っています。つまり、限られた時間の中で発見から診断までのマルチタスクを1人でこなしています。検査中に常に誰かに相談できるわけではないので、プレッシャーや孤独を感じる内視鏡医は少なくありません。

しかし、内視鏡検査は繰り返しできるものではありません。患者さんへの負担があるので、1度の機会でベストな診断と処置をしなくてはなりません。現代では、個別化医療をはじめ患者さんへの寄り添いが求められるようになりましたが、そのようなプレッシャー、孤独感と戦っている内視鏡医も同じく寄り添いを求めているのではないかと思います。

内視鏡AIには、内視鏡医のマルチタスクの業務をサポートしつつ、孤独とプレッシャーを和らげる存在になることを期待しています。内視鏡AIに医師が相談できるような機能があれば面白いかもしれません。でも患者さんに相談内容が聞こえないようにしなくてはいけませんね。