Article内視鏡AI「食道バレット粘膜におけるAI自動診断システム」が示した専門医に匹敵する診断精度2022/09/05

「食道バレット粘膜におけるAI自動診断システム」が示した専門医に匹敵する診断精度

目次

2021年11月に行われたJDDW 2021 KOBEにおいて「Linked Color Imaging(LCI)を用いた食道バレット粘膜におけるAI自動診断システムの開発」を発表された、順天堂大学医学部 消化器内科 准教授・竹田努先生にお話しを伺いました。竹田先生には、当該研究を行った経緯や研究成果とともに、AIを将来的に実臨床で利用していくための展望についてお話しいただきました。

食道バレット粘膜・食道腺がんの増加が危惧される中、LCI×AIに着目

近年、胃・食道逆流症(GERD)の罹患率が増加傾向にあり、それに伴い、食道バレット粘膜や食道腺がんの増加が危惧されるようになってきました。実際、これまでの研究結果等から、スクリーニング内視鏡におけるSSBE(Short segment Barrett’s esophagus)の検出率は12.0-42.6%、LCI観察下では食道バレット粘膜の罹患率が56.2%といわれています1)。

我々はこれまでに、SSBEや逆流性食道炎のあるケースにおけるWLIとLCIでの視認性についての研究を行っており、2018年と2020年にWLIよりもLCIでの観察の方が、視認性が向上することを報告しています2)。またLCIでは、バレット食道や食道腺がんに対する視認性が向上することも分かってきています3)。さらに近年では、WLIにおける観察に対し、その判定にAIを用いた検討が行われており、バレット腫瘍評価の有用性や、食道胃接合部における腺がんの診断に有用であるという報告もなされています4)。

これらの背景を鑑み、AIによる食道バレット粘膜の内視鏡診断支援システムを開発することを目的とし、今回の研究を行いました。

LCIでは専門医に匹敵する精度を発揮

研究概要
2017年5月から2020年3月の間に、順天堂高齢者医療センターに通院する患者を対象に、食道バレット粘膜においてWLI、LClともに観察可能であった連続症例を後ろ向きに抽出しました。選択基準は下記の通りです。

  1. 深吸気での観察が可能であった患者
  2. 近景観察でSC-Jが全周性に観察可能であった患者
  3. 内視鏡的にSSBEと診断された患者(SSBE群)、SSBEを認めない患者(コントロール群)

なお、今回SSBEを対象とした理由は以下の2つです。

  • SSBEがLSBEよりも病変範囲が短く、逆流性食道炎と重なってしまうことで発見が難しい
  • 日本人に限ると、LSBEと比較してSSBEの症例が多い

AIの開発において学習に用いた症例数は514で、そのうちSSBE症例の画像数はWLI:352、LCI:433を使用、コントロール症例はWLI:203、LCI:209を使用しました。

ここで、代表的な症例をお示しします。

図1 今回使用した代表的な症例画像 図1 今回使用した代表的な症例画像

左は、SSBEを認めないコントロール群です。中央はSSBE群で、柵状血管が視認されますが、LCIではより強調された状態です。右もSSBE群であり、柵状血管が視認しづらい症例でしたが、LCIではSSBEが発赤調に強調されています。

結果
テスト用データでの症例数は110で、SSBE症例の画像数はWLI:92、LCI:110、コントロール症例ではWLI:49、LCI:53を使用しました。

WLIでは正診率86.4%でしたが、LCIでは94.4%と上昇し、感度95.8%、特異度92.4%と良好でした。ROC曲線では、AUCがWLI0.914、LCI0.985と良好でした。(図2)

図2 検証用データに対する評価のWLIとLCIでの比較 図2 検証用データに対する評価のWLIとLCIでの比較

次に、AI、専門医3名、非専門医3名での結果を比較しました(図3)。

図3 AI、専門医、非専門医による評価結果の比較 図3 AI、専門医、非専門医による評価結果の比較

WLIの正診率では、AIが86.4%、専門医が88.9%、非専門医が83.6%でしたが、LCIでの正診率は、AIが94.4%、専門医92.8%、非専門医86.9%と上昇しています。感度、特異度においても、WLIよりLCIの方が、全体的に数値が上昇しているのが分かります。

本検討では、専門医・非専門医ともに、WLIと比較してLCIでのSSBEの正診率が向上し、今回開発したAIにおいても、LCIはWLIと比較してより精度が向上することが分かりました。このAIの結果は専門医に匹敵するほどの高い精度を有していることになり、バレット腫瘍のリスク診断として、当該システムが有用であると考えます。

逆流性食道炎の有無ではない― 人とは違うAIの視点

このように有用性についての示唆があった一方で、100例中数例ではありますが、偽陽性や偽陰性例がありました。逆流性食道炎がある症例では、炎症の粘膜とバレット粘膜の見極めが難しいため、AIによる偽陽性・偽陰性も逆流性食道炎の有無に関連しているのではないかと予想したのですが、照合の結果ではAIの診断においては関連性が低いような印象を受けました。

AIが何をメルクマールとして判断しているのかはわかりませんが、「この変化(たとえば柵状血管)があるから、病変である」と判断する人間とは違う視点であるということを、今回の研究を通じて実感しました。

実用化に向けて動画による学習と鑑別が重要に

今回開発したAIの次のステップとしては、動画を元とした膨大な情報を学習データとして使用するべきだと考えています。今回の研究でも、静止画では感度や特異度がかなり良い状態まで学習出来ていると思いますが、今後実用化を目指す上では動画での判定能力が必要になるでしょう。さらに、実臨床では逆流性食道炎、バレット腺がんなど、さまざまな疾患の鑑別が求められます。食道がんを発見する機能をもつAIを今回開発したシステムへ統合することで、食道胃接合部での観察精度の向上を目指したいと考えています。

1)
Chang CY, et al. J Gastroenterol Hepatol.2011
Adachi A, et al. Int Med 2020
2)
Takeda T, et al. Digestion. 2018
Takeda T, et al. BMC gastroenterol. 2020
3)
Tokunaga M, et al. Gastroenterol Res Pract. 2020
4)
Ebigbo A, et al. GUT 2020
De Groof, et al. Gastroenterol. 2020
Iwagami H, et al. JGH 2021