Article内視鏡医「内視鏡AI技術が地域医療における内視鏡診療に貢献する」 齊藤真弘先生(東北大学病院 消化器内科・東北メディカル・メガバンク機構 助教)2022/09/05

「内視鏡AI技術が地域医療における内視鏡診療に貢献する」 齊藤真弘先生(東北大学病院 消化器内科・東北メディカル・メガバンク機構 助教)

目次

gastro AI onlineでは、内視鏡医の先生方に役立つ情報を中心に、情報を発信しています。今回は、東北大学 消化器内科・東北メディカル・メガバンク機構(宮城県仙台市)でお勤めの齊藤真弘先生に、地域医療における内視鏡診療の課題や、内視鏡AIに期待すること等についてお伺いしました。

東日本大震災後の地域医療支援で感じた内視鏡診療の問題

地域医療における診療の観点で、地域差があると感じることはありますか?

私は現在、東北大学メディカル・メガバンク機構(ToMMo)のクリニカル・フェローとして、三陸沿岸の地域医療支援を行っております。1年のうち4か月間、宮城県の沿岸にある気仙沼市立本吉病院に東北大学から出向しています。本吉病院は東日本大震災により大きく被災しましたが、様々な支援をうけて再建しました。さらにその後は総合診療に力を入れて成長して来られ、現在は全国各地から地域医療の勉強に研修医を受け入れ教育する病院にもなっています。震災後、ToMMoクリニカル・フェローという地域医療支援の仕組みにより、東北大学から交互に4か月ずつ医師が派遣され、本年まで継続的に支援が行われてきました。私は今年で2回目の派遣で、ちょうど東日本大震災10年目の節目となる2021年3月11日を被災地で迎えました。三陸沿岸地域の復興は、報道もされているようにとても勢いがあり、復興道路と呼ばれる三陸道も新たに建設されました。それでも仙台市まで1時間半はかかる場所で、遠隔地における患者さんの受診環境の制約を感じました。そのような中で、本吉病院は地域から総合診療を求められている病院として機能拡充し地域住民に信頼されています。内視鏡検査機器も導入され、地域の方々に積極的に検査を受診してもらえる環境が整っています。

COVID-19がもたらした医療者の情報格差の解消

医療者の勉強・研鑽の機会といった観点での地域間の情報格差についてはどうですか?

私が以前、青森県のある中核病院で勤務していた頃は、医師主体の勉強会が月1回定期的に開催されていました。しかし、まだ首都圏と比べると医療情報に関して研究会や勉強会は少なく、インターネットが普及した現状でも情報格差を感じていました。学会や主要な研究会に参加するためには、新幹線や飛行機で長距離移動を要し、宿泊も必要となるなど、診療の間に参加する時間を確保するのに困難を感じました。
しかし最近、COVID-19の影響を受け、学会や研究会がオンライン化の流れになり、ハイブリッド開催されるようになってきております。地方にいてもオンラインでの参加が容易になり、情報格差が解消されていくきっかけになったと思います。COVID-19自体は大変な問題ですが、情報通信技術を活用した新たな仕組みが医療者の研鑽の機会の地域間格差を埋めてくれたと感じています。

内視鏡医の知りたい情報へのアクセス

内視鏡医の先生方が日々の診療、教育、研究等でお困りのことを教えてください。

例えば私たちが調べものをする際にアクセスの良さという観点は大切な要素です。情報通信技術の進歩によりインターネットによって論文そのものへのアクセスはたとえ地方にいても容易になりました。
しかし、内視鏡診療に関してはその診断や治療のスキルを向上させるためには、論文だけでは不十分かと思います。実際に治療経験の豊富な先生に相談をしたり、その治療を見学したり指導してもらったりすることが重要になると思います。私自身は東北大の大学院生時代を思い返すと、たくさんの素晴らしい上司や同僚が近くにいて、気軽に教えてもらい、勉強することができる環境に身をおいていたことがとても意義深いと感じています。

さらに実際に治療経験の豊富な先生が配信されているオンライン教材として、がん研有明病院の平澤俊明先生が提供しているメールマガジンのコンテンツ「内視鏡アトラス」がありますが、これは内視鏡医の診断スキル向上に役立つ情報を配信してくれます。先輩ドクターが考えていることや感じていることを勉強できるコンテンツなのではないかと思います。

内視鏡アトラスとは
「癌の診断能力向上」を目的として、がん研有明病院 上部消化管内科 副部長・平澤俊明先生が主宰し、毎週発行している内視鏡医向けメールマガジン。開始以来、登録者数が継続的に増加して現在は1,100人を超える。がん研有明病院での症例を、大きな写真を用いてわかりやすく図示しながら順を追って解説するスタイルが人気で、多くの内視鏡医が、自己研鑽に活用している。

内視鏡AI技術が地域医療での内視鏡診療に貢献すると思う

内視鏡AIについてのご意見や期待をお聞かせください

内視鏡AIに期待される役割や機能は多岐にわたると思いますが、私は特に地域医療において内視鏡AI技術の活躍の機会があるように感じます。先に東北大学・東北メディカル・メガバンク機構の地域医療支援で私が出向していた本吉病院を紹介しましたが、地域医療を担うこうした病院においても、患者さんを総合的に診ている病院であり、内視鏡検査の需要は多く存在します。しかしながら、必ずしも常に内視鏡専門医がいるとは限りません。そうした状況下でも内視鏡検査をされる先生が診断に迷ったときに、AIの解析を参考にすることで判断の一助になっていくのではないかと思います。本吉病院に限らず、各地域で同様の実情にある医療機関は多いと思われますので、内視鏡AI技術が地域医療で活用されることで、地域の患者さんが内視鏡検査を受けられる機会が増え、地域医療に大きなメリットが生まれてくると思います。
地方部から都心の学会や研究会へのアクセスの格差を「情報通信技術」がうめてくれたように、内視鏡専門医が不在の地域での地域医療における内視鏡診療に「内視鏡AI技術」が活用され患者さんに還元されることを期待したいとおもいます。